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ある春の日から一年後のお話 5 ただいま

 ずっと一人暮らしだった。両親が死んじゃってから。 「はぁ、やっぱ、うちはいいな」  英次が入院してからの数日はさ、前みたいに一人暮らし、だったんだけど。 「そ? けど、英次、病院だったらゆっくり眠れたじゃん。仕事の電話とかもないしさ」  なぁ、俺、すっげぇ頑張ったんだ。英次がいない間だってさ、もうガキじゃないから、英次のことを支えられる男になりたいから、ちゃんとしなくちゃって、頑張った。  英次が入院した三日目、だったかな。会社で教わった魚のココナッツミルク煮作ったんだ。英次そういうの苦手だろうって思って、英次がいない久しぶりの一人暮らしを満喫してやるぜーって、思った。  思ったのに。  その魚のココナッツミルク煮がめっちゃくちゃ美味くって、少しスパイシーで説明なんてできない味でさ。  説明できないから、食べさせるしかなくて。けど、英次は病院で隣にいないから食べさせられなくて。  そしたら隣にいないことがすごく実感できて。 「盲腸でよかったよな……マジで」  実感しちゃったら、寂しくなっちゃった。 「あ、そうだ。英次がいない間にさぁ。押田と出かけたんだ。ホワイトデーに何を買えばいいのかわかんないからついて来てくれって言われてさぁ。そん時、英次のこと話したらさ、盲腸だから、下の毛ないんじゃね? とか、バカなこと言ってた」  ずっと一人暮らしだったのにさ。 「アホだろ? あるっつうの。今、毛剃っちゃうことってあんまないんだって教えてやったんだ」  もう一人暮らしはできそうにない。 「そしたら、つまんねぇっだって」  一人になったら、恋しさが増した。 「……凪?」  愛してるって、すごく感じた。 「おかえりなさい。英次」 「……泣いてんのか?」 「泣いてない。ただ」  ぎゅって、腕にしがみ付いた。 「ただ?」 「嬉しいだけ」 「……」  すごく英次のこと、愛してるんだ。 「あ! そだ! お茶飲む? 飯は普通でいいんだろ? 病院のって味気ないっていうじゃん。だから、っわぁぁぁぁぁぁぁ!」 「……」 「ちょっ! おい! 英次! バカ! 傷口が!」 「うるせぇ」 「は? 英次、な、なにっ」 「暴れんな。頭ぶつけるぞ」  心配するとこ違うだろ。俺の頭なんてどうでもいいよ。そうじゃなくて手術したんだから。  いきなり肩のところで担がれて、慌ててでっかい声で名前呼んでも、全然気にもせず、意にも介さず、しれっとした顔で担いだまま。腹に穴開けたんだぞって脅したところで不遜な英次にはだから何? みたいな感じでさ。  人のこと米俵みたいに持ち上げるな。 「英次っ! 英次ってば! って、うわぁ」  ベッドの上に転がされて。 「……」 「っ」  組み敷かれて、上から見つめられたら。 「怖がらせた」 「っ、平気だってば」  本当はちょっとだけ怖かった。大事な人がいなくなる時のあっけなさも、儚さも知ってるから。 「寂しかったろ」 「平気。俺、どんだけ一人暮らししてると思ってんの?」  本当は、やっぱちょっとだけ寂しかった。ふてぶてしい英次の声が聞こえないと、なんかつまんなくて仕方なかった。 「……ただいま」 「……おかえりなさい」 「あぁ」  ふわりと微笑んでくれるこの人をただ、心から愛しているって思っただけ。  愛しくてたまらないと切ないくらいに思っていただけ。 「ぁっ……ン」 「なぁ、凪」  耳元で聞こえる低く甘い声に蕩けるほど。 「下の毛、本当に剃ってんのか、剃ってないのか、知りたくないか?」  不善で不遜なこの人が欲しいと思っただけだ。 「あっ……ぁっ」  自分が腰を揺らす度に甘い甘い音がする。 「あぁぁっ……ンっ英次、ぁ、痛く、ねぇ?」  そそり立った英次のペニスをお尻に挿れて、たくさん自分から擦り付ける甘い音。 「あぁ」 「あっ、はぁ……アッン」  お腹んとこ、傷には大きなテープが貼り付けてある。手術から五日目でセックスしちゃダメだろって言ったんだ。そしたら、英次がさ、不敵に笑って「入院の手引きに書いてあったのか?」なんて言うんだ。 「あぁぁっン」 「凪……気持ちイイのか? そんな一生懸命に腰振って」 「あン、ン、気持ち、ぃ、よ。だって、ここ、英次が解してくれた時から、たまらなく気持ち良くて仕方なかった、もん」  ずっと、入院の間はもちろんしてなかった。うちでもしなかった。そんな気分になんて到底なれそうもなかったから。 「あぁぁっ」 「エッロ」  なのに今はきゅんきゅんしてる。 「あ、あっ」  英次のことが欲しいって、嬉しそうにしてる。 「あンっ……ン、んっ」  お腹に当たらないように、痛くならないように、たくさん脚を目一杯まで開いて、孔で英次のペニスをぎゅうぎゅうに締め付けてしゃぶりついてる。 「凪のエロいとこ、丸見え」 「ンっ、ぁっ」  乳首を抓られて、ピクンって、素直に英次のよりもずっと小ぶりなペニスが揺れた。揺れたそれを大きな掌で可愛がられたいって、身体が疼くから。 「ン、んっんっ」  止まんない。 「ぁ、ン、英次、痛く、ない?」 「あぁ」 「英次っ」  ぱちゅんぱちゅんって、濡れた音を響かせて自分から腰を振ってた。腰振って、自分のペニスを、自分で握って。  大好きな、愛しい人の前で、恥ずかしいくらいに興奮してる自分を全部晒してる。 「ン、英次っ」 「……」 「英次も、イく?」  俺、中にして欲しい。 「……スケベ」  おねだりしなくてもわかっちゃうくらいに、身体が英次のことを欲しがって切なげに中でしゃぶりつく。 「ン、欲しいんだ、もん」  英次の熱が欲しい。たくさん欲しいんだ。溢れて零れるくらいに欲しい。全身触ってよ。俺の奥んとこ英次の熱いのでいっぱいにしてよ。  貴方のこと、感じたいんだ。 「英次ぃ……ぁ、あっ、ン、イイ、よ、ぁ、ンっ気持ち、ぃ」 「やばいわ」 「え? あ、ぁぁあっ! ン、ダメ、そんな、したら、イくっ」  大きな手。 「イくとこ見せろよ」 「あ、あ、あ、あっ」  自分のを握って扱いてる手ごと包んでくれる大きな手。 「凪」 「ぁ、イくっ、イっ、ぁっ」 「愛してる」 「っ! …………っ!」  その手があったかかった。奥の奥を抉じ開けて注がれた英次のが熱かった。 「ぁっ……ン」 「ただいま」 「ン、バカ、このタイミングで言う、の、なしっ……んんんっ」  そして、乱れた呼吸が力強くて、抱き締めてくれる胸がたくましくて、すごく、嬉しかったんだ。

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