「ごめ、英次の手、俺」 「ったく」 　見上げれば、すげぇしかめっ面の英次がいた。手、汚した。ただ英次に裸になるとこを見つめられてるだけでたまらなかった。名前をゆっくり優しく、耳の奥まで愛撫するような低い声で呼ばれて、我慢できなかった。 「ごめん」 　俺だって、まさか、裸になるだけで、イっちゃうなんて思ってもみなかったんだ。英次に見られてただけで、そんなふうになるなんて。 「バーカ、それじゃねぇよ。怒ってるのは」 「？　英次？」 「汚れた、なんてこれっぽっちも思ってねぇ」 　俯こうとしたら、それを止めるように額にひとつキスをされた。 「凪、お前、ホント、可愛いぞ。少し、自重しろ」 「？」 「なんて言っても仕方ねぇんだろうなって、思っただけだ」 「英次？」 　今度は名前を呼んだ唇に返事の代わりのキスをくれる。ちゅって音を立てて、ベッドに押し付けるように少しだけ強く唇をぶつけて、舌が荒く差し込まれる。 「お前が可愛くて仕方がないのはいつものことだ」 「ン、んんっ……ン」 　角度を変えて、舌同士を絡ませ合いながら長い長いキスをする。キスをしながら、髪をすかれて蕩けそう。舌に溶かされそう。 「英次っ、もっと、キス、したい」 イったばっかの俺はまだビクつく身体で英次に抱き付いて、もっとって自分からキスを欲しがって、英次の唇を啄ばんで、ちょっと吸って、舐めてみる。 「んんっ」 　強く押し付けられた唇に、強引に口ン中を抉じ開けられるの、気持ちイイ。キスだけでこんなんじゃさ、俺、こっから先。 「！」 　こっから先持つのかな。 「……なんだよ。服着てたら、セックスできねぇだろうが。ガン見して、楽しいか？」 「うん。楽しい。っていうか、見てるだけで、俺、またイっちゃいそう」 　だって、英次が服脱いでる。当たり前っつうか、俺が裸で、英次が服着てたらやだけど、でも、だって、英次が。 「そ、そんくらい、かっ、かっけぇ」 「そうか？　ありがとな。お前は可愛いよ」 　いつもだったら、そう言って笑って、そんで、頭のてっぺんを撫でられる。イイコイイコって。でも、違った。英次が叔父っぽいことをしてこない。 「ン」 　ありがとって言って笑って、そんで、キスをしてくれた。裸になった英次の肩に掴まっていいのかわからず、手の置き場所を探す俺にキスしながらまた笑って、首に回しとけって、手首掴んで、連れてってくれる。 「ン、英次っ」 　裸だ。俺も英次も裸で、素肌が触れ合うとそれだけでも気持ちイイ。舌を夢中で追いかける俺をかまいながら、ズボンと下着も脱いだ英次にドキドキして、なんか、指先が勝手に英次のうなじに爪を立てる。 「くすぐってぇよ」 「ご、ごめ」 「俺も変わんねぇな」 「？」 　何？　そんな見つめられると、恥ずかしいじゃんか。素肌に触れられただけで、さっき英次の手でイかされたそこがまた熱くなってるのとかも、すごい恥ずかしいのに。 「お前に身体のどっかしらでも触れられただけで、イきそうだ」 「！」 　覗き込まれて、英次の黒い瞳が濡れてることにドキドキした。俺のことを見て興奮してくれてるって触れてくれる掌の熱さでわかってすごく嬉しくなった。 「凪」 　名前を呼ぶ声が少し掠れてるのもヤバいよ。その声だけで、また俺はイかされちゃうって、こっそりと腹の底の熱がまた膨らみ始めるのを堪えた瞬間――。 「あっ！　あぁぁっン！」 「くすぐったいか？」 「ン、なんか」 　乳首を吸われてびっくりした。だってさ。 「あ、英次、あのっ」 　男の胸にくっついたこれなんかじゃ、英次はムラムラしないか、って、風呂上りの自分を見てちょっと溜め息だった。肌とか白くたって、肩が華奢だって、何したって男なのはどうにもならない。胸にくっついた乳首はただの飾りみたいなものでしかなくて、膨らまないし、ぺちゃんこで、のぺっとした胸板に英次が興奮する要素なんて、砂粒ほども見当たらないって思ってたから。 「なんか、ちょっと、嬉しい」 「……」 「俺の身体、触ってもらえて。へへ」 　嬉しくて、場違いっつうか、ムードとか台無しにするかもしれないけど、口元を隠しつつもどうしても笑っちまう。だって、英次がそこ舐めて、キスしてくれた。きっと面白くも楽しくもないだろうし、興奮なんてしてくれないかもしんないけど、でも、触ってくれた。胸にくっついた飾りでも、ちゃんと愛撫してくれたことが、嬉しくてさ。 「お前、ずいぶん、余裕だな」 「は？　余裕なんか、ねぇよ！　そんなんっ」 「嬉しいとか言って、そんな可愛い顔で笑いやがって、ホント、人の苦労も知らないで」 「え？　ぁ、やぁぁっン」 　キスじゃなくて、胸に吸い付かれて背中が浮き上がる。細いって言われた腰をくねらせて、乳首に与えられる快感を身体の中でどうにかしたくて身をよじって。でも、英次の力強い腕がそれを許してくれない。掴まえられて、ちゃんと感じてろって、乳首を吸われて舐められて、たまに歯で齧られた。溶けるかもって思うくらい、交互に乳首を可愛がられて、ジンジンと熱が腹の底のところで暴れ出す。 「お前の感度も犯罪レベルだな」 「英次？」 「ここ」 「ひゃああっ」 　ピン、と弾かれた乳首はツンと尖って、先端のところが濡れて光ってた。そして、その周り、男の俺の胸、肉の柔らかさなんてゼロの硬い胸にいくつも残ったキスの印。そこ全部に英次の唇が触れたっていう印。 「舐められて、ここ、こんなに硬くさせて」 「あ、だって」 「いいんだよ。そのまま、素直に感じてろ」 「？」 　何？　って思う俺にキスをくれた。甘くて美味しいキスに俺の中がどんどんやらしくなっていく。 「んんっ」 　さっきイったはずなのに、乳首を舐められてトロトロと先走りを垂らして、もっと気持ちイイことを欲しがる身体を英次の掌が撫でてくれる。濡れたペニスの竿をなぞられて甘い声をあげる。 「あっ……」 　そこを抉じ開けられて声が漏れた。 　身体の奥んとこ。 「英次……」 　奥の、孔につき立てられた指が、英次のしてくれること全部が気持ちイイって伝えるための吐き出した液をまとって、中に入ってくる。 「あぁっ……ン」 　英次の、あの、間接んとこが少し太くて、長い指が。 「凪」 「あっ、ン……これ、英次の指？」 「あぁ、痛いか？」 　背中がビリビリする。 「凪？」 「あぁっ……ン」 　少し奥を撫でられて、きゅんって孔の口が英次の指を締め付ける。 「英次の指、だ、ぁ」 　嬉しくて涙出そう。なぁ、英次。セックスするって、こんなに嬉しいんだって、知らなかった。 「あ、あぁっン」 「お前の中、熱い、指、気持ちイイのか？」 「わか、んなっ、でも」 　奥にゆっくりそっと入ってくる指は優しいけれど、どこか強引で、英次にそっくりだった。 「でも、すごい、嬉しい」 　やっぱ、ムードとかよくわかんねぇ。普通はこういう時に笑ったりしないもんなのかもしれないけど、でも、やっぱ笑うよ。ふにゃふにゃになる。 「あと、さ、英次」 「どうした？　痛いんなら」 「んーん。そう、じゃなくて、指、気持ちイイ」 　英次が俺を大事に抱いてくれるのがたまらなく嬉しいんだ。知ってた？　俺は初めてだから、今知ったんだけど、喜びと快楽って似てる。英次が撫でてくれた腹の底んとこでそのふたつがくっついて抱き合ってる。 「英次の指、気持ちイイよ」 　もっとたくさん、して欲しくなる。