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第32話 溶けたアイスはやたらと甘い
うちのマンションから歩いて十分くらいの所にあるスーパーマーケット。ひとりで暮してた時も日用品はだいたいここで買ってた。だから、どこに何があるのか全部わかってる。英次も食料品のとこはもう覚えたけど、歯磨き粉とか、そうしょっちゅう買うわけじゃないものとなると、途端にわからなくなって、それを道案内するのが楽しかった。
スーパーマーケットでする買い物がデートみたいにただ楽しいくて、つい、ちょっと高いビスケットでサンドされてるアイスクリームとか買っちった。
英次の好きなチョコクッキーのがあったから、英次のだけ買おうかと思ったら、「お前は何食う?」って聞かれて、嬉しくて、高いのに、今日くらいいっか、ってなった。
「お前、案外渋いの選んだな」
「そ? 美味いよ? ラムレーズン」
本当はチョコがよかったけど、そしたら、英次のチョコクッキーと少し被るじゃん。だったら、こっちのほうが全く違う味でいいかなぁって。
「食う? ラムレーズン」
「あぁ」
そしたら、英次と半分こができるかなぁって、少しだけ考えたんだ。
「美味いな、ラムレーズン」
「だろっ?」
大人の英次はラム酒とかの味好きかもって。
「もう一口食わせろ」
「あっ! ちょっ! 俺のっ!」
英次の手がビスケットサンドを持つ俺の手首を掴んで、無理矢理引っ張って、そのまま自分の口元まで連れて行く。そんで、パクリと、けっこう大きい一口でラムレーズンを持っていかれた。
ずりぃ、って文句を言いながら、実際はこういうことがしてほしかったりして。内心はしゃいでたりする。
「俺も! 英次の半分! 食わせろっ!」
なんて言って、英次にちょっかいかけたかっただけ、だったりして。
「っぷ」
「な、なんだよ」
「お前、チョコ食いたかったんじゃねぇの? すげぇ、美味そうに食ってるけど」
「! ちっ、ちげぇよ!」
そうかぁ? って、疑いの目を向けられて慌てて俯いた。そうだよ。チョコ食いたかったけど、英次に触りたかったんだ。半分こ、とかしてみたかった。叔父と甥っ子の時だって、そういうことしたけど、今ならもっと甘くて美味しいかなって。
そしたら、予想どおり、ものすごく甘くて美味しい。段々と夏の夕暮れに溶けて柔らかくなってきたアイスは甘くて蕩ける。
アイス食べてるのに、喉のとこがひんやり冷たくなるどころか、ホットチョコレートでも飲んでるみたいに熱くなる。英次に触られると、ドキドキして、ゾクゾクして気持ちイイんだ。
「……ただ、触ってもらっただけなのにな」
掴まれた手首から、熱がゆっくりじっくり広がる。
「凪?」
英次だから、なんだ。
「さっきさ、大学でダンスの練習中に転びそうになってさ。押田が手、掴んでくれた」
「は?」
「んで、その時さっ! っ……」
押田に掴まれても、何も感じなかった手首が英次に触れられると、そこだけ別みたいにジリジリする。熱くて、その肌のところで熱せられた血が全身を巡って、ほら、もう、腹んとこが少し熱い。
「自覚しろ、っつっただろうが」
「な、ぁっ……ン」
アイスが溶けて、ビスケットの間から甘い蜜みたいに掌に垂れて伝って、手首に白い線を――それを英次の唇がキスと一緒になぞった。
「え、いじ、ここ、まだ、外っ、だって」
「外じゃなかったら?」
「ンやぁっ」
もうマンションはすぐそこ。夜道を照らすのは街灯くらい。人はそんなに通ってない、ぽっかりとできた時間と人の隙間みたいな一瞬。
「ホント、自覚しろよ」
「っ」
その一瞬で、俺はこんなに熱くなる。英次のことが欲しくなってしまう。
「英次、だからだっ」
「……」
「押田、に、触られたって、別に何も起きない。けど! 英次に触られたらっ、俺っ」
このアイスみたいに溶けて垂れてく。
「お前なぁ」
「な、なんだよっ」
「俺の甥っ子はいつからそんなに」
「……」
「叔父を困らせるくらい可愛くなったんだ?」
溶けて、垂れて、英次に――
「あっ、やぁぁっン」
ワンルームだから玄関開けたらすぐそこにベッドがあるのに。
「やだっ、英次っ」
「美味いぞ? お前の指」
「やぁぁっ……ン」
手首にキスマークつけられて、溶けたアイスでべちょべちょになった指を一本一本丁寧に口に含まれて綺麗にされて、ただ、これだけのことで、こんなになるなんて。
「や、ぁ、イっちゃうってばっ」
下着、まだ脱いでないのに、もう熱くて痛くて、どうにかなっちゃいそうだ。英次に触ってもらいたくて、勝手に腰を揺らしてる。
「……煽ったお前が悪い」
「あっ、はぁぁっン、ぁンっ、英次っ、えい、じっ」
アイスってこんなに甘かったっけ? こんなに喉が渇くくらい?
「凪? どうし、……」
俺を玄関のところで組み敷く英次の首を捕まえて、強引に引き寄せた。そして、唇に噛み付いてから、舌を絡めて、英次のことが欲しいと舐めて啜る。
「英次の口ン中、まだ、チョコ? 残ってるの、かな、甘い味がする」
「もう、わかんねぇだろ。お前の指にくっついてたラムレーズンと混ざってるから」
アイスってさ、夏に食べるんだから、身体を冷やしてくれそうなものなのにな。喉が熱くて、溶けかけアイスが入ってる腹んとこがすごく熱い。熱くておかしくなりそう。
「ン、美味しい」
唇をくっつけずに、舌同士だけが絡まり合うキスって、なんか、エロくて、溶けそう。舌先のすごく小さな箇所だけでくっついてるのに、やたらと刺激が強くて、痛いよ。
「英次、ン……ぁっ」
「……」
触って欲しい。全身、たくさん、触って欲しい。
「アイスもう一個、買えばよかったな」
「?」
「もっと、甘いものが食いたい」
「あ、やぁぁっンっ」
こりっとした感触。でも、そこ味しないじゃんって、英次の頭を腕でぎゅっと抱きかかえながら、喘がされつつ文句を囁いた。
「甘いよ。すげぇ、甘い……お前の、やらしい声」
「ン、ふっ……ンん」
乳首をたくさん濡らしてくれた舌と、ツンと尖るほどしごいてくれた唇に、今度は甘いキスをもらった。
「ン……英次」
英次にぎゅっと抱きついたら、心臓止まりそうなくらい微笑まれて、もうその笑顔で、アイスみたいにトロトロになれたんだ。
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