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第56話 暑い日が続いております。

「うわぁ、外、すげぇ暑そ……」  エアコンの効いた部屋でアイスを食べながら外を眺めた。強い日差しでできた影がものすごいはっきりしているのを見ただけで、外がどんだけ暑いのかがわかる。きっと玄関を飛び出した瞬間、今、手に持ってるアイスバーが溶けると思う。 「今日、三十七度っつってたからな」 「マジで? うわぁ……夏休みでよかった」 「俺も休みでよかった」  隣に並んで蝉すらバテそうな外の暑さを人ごとみたいに眺めてた英次をチラッと見た。普通にコップに注いだ麦茶飲んでるはずなのに、なんで、そんなかっけぇの? 俺も喉仏あるけどさ、なんでそんな、ごろっとしてんの? 麦茶飲み干す時に上下に動くだけでエロかっこいいんだけど。 「そのアイス美味かったか?」 「あ、うん。すげぇ美味かった。あ! 食べたかった? これ、ラスいち」  もう半分以上なくなったアイスバーを慌てて英次に差し出した。この前、美味そうだったからって買ってきてくれた、和風アイス。まるっと小豆のアイスにコーティングされたバニラの中に小さめの白玉が入ってる。 「いや、別に……」 「ンっ……んふっ……っ」  英次は差し出したアイスバーじゃなくて、そのアイスバーを掴んでいる手を大きな手で包んで、そのまま引き寄せた。キスに驚いて俺が落っことさないようにって、英次の手が俺の手ごとアイスバーを握っている。  でも、力入らない。  抱き締められて、舌も絡める濃くてエロいやつをされたら、腰の辺りがふにゃふにゃになるから。もちろん指先だってアイスバーを掴んでる場合じゃなくなる。 「ン、ん」 「今、食ったから平気だ」 「も……バカじゃねぇの」  きっと俺は真っ赤になってる。ただのキスだけど、英次の舌が俺の口の中をまさぐるように舐めて掻き混ぜるから、エロすぎて心臓破裂しそうになる。 「ごちそうさま。でも、美味いな、これ。また買ってきてやる」  まだ一ヶ月も経ってないからなのかな。いまだに英次と暮してることに慣れない。ドキドキする。朝起きて、俺を抱き枕にしている英次に、ヒゲを生やした顎んところに、夕飯を一緒に作りながらちょっとぶつかる肩に。いつでも、どこでもドキドキしてる。なんなら、鍵開けるのだって緊張するんだ。英次と同じ部屋に帰ってくることに。 「にしても、暑そうだな、外」  もうそのうち川なんて干上がるんじゃね? 連日の猛暑で連日の三十六度越えで、そのうち、インフルエンザ並の高温になるんじゃって思う。今、俺の顔もきっと余裕でインフルエンザかかってますレベルで真っ赤だとは思うけどさ。 「……プール、行くか?」 「えっ!」 「プール、凪はせっかくの夏休みなんだし。海はまたそのうちな。日帰りしか無理だけど、朝一でいけばたんまり泳げるだろ。今日はプール、別に行きたく」 「行くっ! 行く行く行く!」  バスに乗り遅れそうな人みたいに、慌てて、前のめりで手を挙げてまでアピールしてた。そんな俺を見て英次が目を丸くして、そんで、少し我慢したけどやっぱり笑った。爆笑じゃなくて、穏かにゆったりと笑って、俺の頭をくしゃくしゃにする。  きっと今、可愛いって思われた。英次は俺を可愛いと思うと、突付くっつうか、ちょっかいを出す癖があるって最近わかった。頭撫でるのは大概がそんなタイミングだって。 「よし、そしたら支度するか」 「うん!」  そうと決まれば急いで支度しないと。少しでも長くプールに入って遊びたいだろ。だから、急いでアイスを平らげて、プールの準備を始めた。 「えっと……」  水着は履いていくからよくって、バスタオルだろ? あと、帰りの下着、財布、浮き輪とか欲しいけど、持ってない。途中で買うか? でもどこかに寄る時間が勿体ねぇ。 「凪、用意できたか?」 「あ、う……ん」  ふと思った。プール行ったら、英次の裸をすげぇたくさんの人が見るのか? いや、そうだろ。女の人だってうじゃうじゃいるプールで、あの、英次の裸を晒すとか、ダメじゃね? 危なくね? さらわれそうじゃね? 「お前、ラッシュガードは?」 「は?」 「ラッシュガード」 「えぇー……いいよ、いらない」  日焼けならあんま気にしてない。っつうか、毎回真っ赤になってヒリヒリしたと思ったらそのまま数日かけて白の肌色に戻るだけだから。ラッシュガードなんて必要ない。 「バーカ、お前の裸露出してみろ。その場で襲われるぞ」 「……」 「さらわれるからな」  何、真剣な顔で言ってんの? って、ぽかんとしてる俺にラッシュガードは途中どっかで買うかって、ボソボソ呟いてる。 「っぷ」  いらないし。そんなの着てたら泳ぐのに邪魔だし。思いっきりジャブジャブ遊びたいのにさ。 「……なんだよ」 「だって、同じような心配、俺もしてたから」  カッコいいから、もしかしたらさらわれちゃうかもって、わりと本気で思ったら、英次と同じこと心配してんだもん。笑うじゃん。 「ったく」  お互いに苦笑いだった。ねぇ、お前が可愛いのが悪いんだって、そう思った? その言葉そのまま、返すよ。 「どうする? 今日、プール行かずに」 「そこは! 行く!」 「行くのかよ」  うん。だって、めっちゃ楽しそう。英次とプールに入るとか何年ぶりだろう。そんなデート絶対したいに決まってる。 「もう俺、用意終わった! 英次は?」 「あぁ」  プールでたんまりはしゃいで、三十七度、三十八度だろうがそんなん水でぶっ飛ばして、英次と泳ぎたい。きっと絶対に気持ち良いよ。青い水の中は涼しくて綺麗だよ。  ワクワクしながら、荷物を詰め込んだバッグを手に取った。早く早くって気持ちが急いでる。ビーサンつっかけて、早く行かないとプールがどこかに行っちゃうみたいに、足が勝手に玄関へと行きたがる。 「もう! 英次! 早く!」 「わかってる」  全然わかってねぇじゃん。もおおお、いいからっ! キッチンもリビングもちゃんとしてあるって。その場で足踏みしてても英次がいっこうに急ごうとしないから、背中を押して、早く外に連れ出そうと思った時だった。  トゥルルル――って部屋の壁に取り付けてあるインターホンが鳴った。  配達なんて頼んでたっけ? 首を傾げながら画面をオンにすると、そこには。 「……ぇ?」  その小さなが画面には画像が荒くてもしっかりわかる、切れ長な目元が特徴の、長身で黒髪の、声楽科で、ダンスの特別カリキュラムの時に知り合った、セレブの三嶋がいた。

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