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第66話 トロトロ、とろり
「しよ? 英次」
英次の指先にキスをした。歯なんて立ててないのに、痛そうに顔をしかめる英次を見つめて、掌にもう一度、キスをする。温かくて、大きな掌に唇で触れて、今度は猫みたいにぺろりと舐めた。
「っ」
「英次、しよ?」
掌にキスをしながらもう一度誘ったら、ふわりと視界が高くなった。
「どこ、行くんだよ」
抱え上げられてるから俺のほうが視界が高い。少しドキドキした。
「ベッド」
「……そっか、よかった」
だから、落っこちないように腰を足でがんじがらめにして掴んで、腕で首にぎゅっと抱きついて、耳元に安堵の溜め息をついた。すごくしっかりとしがみついてるから、ほっと吐き出した溜め息が俺たちの間にだけ広がった。
ふわっと寝かされたのは買ったばっかのベッドの上。大事に、そっと、慎重に下ろされてくすぐったい。
「トロトロにしてやる。気持ち良くて仕方ないってなるくらい」
ベッドに横たわった俺を見下ろしながら、足で逃げないようにと身体を挟みこまれた。そんなことしなくたって逃げないしって、思いながら、服を脱ぐ英次を見上げてた。
「何笑ってたんだ」
「だって、英次の裸を妄想したこと、数え切れないくらいあるなぁって思ったんだ」
「現実知ってがっかりしなかったか」
無言でニコッて笑って、眉だけ上げた。妄想の中の英次よりも、本物のほうが数百倍カッコよかったに決まってる。何その腹筋。なんでそんな良い身体してんの? って、びっくりした。
「おい、こら、答えはぐらかすな」
「あっ! ひゃぁっ……ン」
ベッドの上に膝立ちになってTシャツを脱いだ英次が、その骨っぽくて男らしい裸に今でもドキドキしてるなんて知りもしないで、俺に覆い被さった。そして、英次の唇に首筋を吸われて、素直に甘い悲鳴を上げてしまう。
「あっ……ン……英次っ」
「……」
「っ」
なんだよ。心臓おかしくなるだろ。そんな顔して俺のこと見るな。ドキドキして、興奮しすぎて、もうとろけそうになるじゃん。身体の中が熱くて、吐く息も熱くて、思わず手の甲で口元を隠して喉奥を詰まらせた。でも、英次の手が俺の手を掴んで頭の上へと持っていく。ベッドの上に張り付けにされながら、耳朶を甘噛みされて、耳舐められて、首筋に小さなキスをたくさん落とされる。
「英次、気持ち、イイ……」
「たったのこれだけでか?」
「うん」
素直に頷いた。だって、本当に両想いなんだ。俺ばっか大きくて重くて、シーソーの上に乗っけたら、絶対に俺のほうへずっと傾いてるって思ってた。
「もっと、英次……ここも舐めて」
「……」
「乳首も、舐めて」
でも、英次も俺と同じくらい好きでいてくれた。シーソーはずっと傾かないで、たまに揺れながら、それでも、ずっと同じ高さに「好き」を乗っけてた。
「あっあぁぁっ……ンっ、ぁっ」
服越しに口に含まれたら、もどかしさが快感に変わって全身を駆け巡る。濡れたあの舌に直接いじられたいのに、それが叶わないのがじれったくて、身体の中がトロリとやらしい音を立てた気がする。
「もう、コリコリしてる」
「ん、だって……英次に乳首、触られるの、好き、あぁぁぁっ!」
服越しなのに、布が湿ってくだけで気持ちイイ。もっと引っ掻いて、コリコリしてる乳首を食べて欲しくて、英次の口の中に押し込むみたいに背中を反らせた。
「っン」
ベッドに手を張り付けにしてた錠代わりの英次の手が今度は唾液でびしょ濡れになった乳首をキュッと摘む。甘い悲鳴をあげて腰を浮かせたら、そのまま、下着ごとズボンを引きずり下ろされ、乳首が透けて見えるくらいに濡れたTシャツをめくられ、脱がされた。丸裸になった俺に英次のキスが降り注ぐ。硬く尖った乳首にも首筋にも鎖骨にだって降って、吸われると、キスマークがついたかなって、嬉しくなって。そして、唇に一番深く濃いキスをされた。息、できないやつ。舌が絡まって、唾液が溢れて、口元から垂れるくらい、淫らでエロいキス。
「ン……英次」
唇が離れると、透明な糸がキスの名残として俺たちを繋ぐ、そんなキス。
「トロトロになっても、いい?」
「あぁ」
俺のこと、トロトロに甘やかしてくれる? 英次も俺のこと同じくらいに好きなら、俺がどんなにエロくても引かずに抱き締めてくれる。やらしいことして欲しいって、たくさんねだっても、引かない?
「英次」
名前を呼びながら、自分がいまからしようとしたことにすら興奮して身震いする。のそっと起き上がり、ひとつ英次の唇にキスをして、ゆっくり、ゾクゾクしっぱなしの身体をくねらせて、ベッドの上に四つん這いになった。
「……ここ」
そして、ベッドに上半身を預けて、英次と一緒に眠ってたシーツに鼻先を埋めて、深く息を吸い込んだ。耳、めちゃくちゃ熱い。恥ずかしくて蒸発しそう。でも、恥ずかしいよりも、ひどくやらしいことがしたい。英次と抱き合って、ずっとお互いに持ってた「好き」をここでごちゃごちゃに混ぜたいんだ。ふたりで暮してるこの部屋の、このベッドで。
「ここ、たくさん、して」
顔を埋めて、きっと耳が真っ赤だ。首筋んとこまで熱い。だって、今の俺、すごい格好してる。
「こ、こ……」
自分の手でいっぱいに広げて、尻を掴んで、左右に割り開く。丸見えになった孔が緊張とゾクゾクに反応して、きゅって口をすぼめてる。
「たくさん、してよ……ぁっ」
自分の指で縁をなぞるだけで溢れる声がたちまちシーツに吸い込まれていく。自分でそこを繋がりやすくするために解そうと、英次の目の前に曝け出した。
「ぁ、あぁぁぁっ!」
恐る恐る孔の口を指先で突付いたら、前を握られた。
「あっ、あぁっ……ン」
ちょっとだけ自分の指を咥えたそこが、英次に握り締めて扱かれ滲む快感にきゅんきゅんして、締め付けてくる。
「凪」
「あ、あっ、英次の手、気持ち、イイっ、あぁぁぁぁぁっ!」
シーツに染み込んでいくからって大胆に喘いでた俺は割り開いて、指をちょっとだけ咥えた孔にもキスをされて、背中をそらせて悲鳴を上げた。
「あっ、やだっ! 英次、そんなとこ、ひゃぁっ……ン、舐めっ」
また甘い声をあげる。英次の舌が孔を舐めて、中に少しだけ押し込まれたから。
「トロトロにするって言っただろ?」
「……ぁ」
ゾクゾクって、鳥肌が立って、快感が背中を舐めるように駆け上がる。ベッドに頭を預けながら、後ろへ視線を向けると、英次が、俺の奥までほぐすために濡らそうとしゃぶりついてた。
「っ」
「凪」
「あ、あぁっン」
とろりと垂れそうになった先走りが英次の掌に馴染んで、熱をたくさん溜め込んだ底に塗りつけられる。濡れた音は奥を抉じ開ける舌と、前を握り締めて動く掌から。
「あぁぁっ……ン、英次、ぃ」
でも一番濡れてたのはきっと俺の声だった。
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