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第67話 青い君を想って

 なんで今思い出したんだろう。 「あっ、はぁっ……ン、英次っ」  前、あれは押田に俺たちのことを知られて、すごくひどく言われて、英次がそれでも俺のことが欲しかったんだって、悪いのは、罵声を浴びるのは俺だって言ってくれた後。怖いって。世界中に非難されることじゃなくて、俺が普通の幸せを選びたいって思ったら、とても怖いって。 「凪? 痛かったか?」 「っ、ごめ、ちがっ」  勝手に涙が零れてて、それを、英次が痛いとか、ヤダ、って意味の涙かと慌てて覗き込む。 「違うんだ……前に、英次が、朝方さ、ひとり起きてたことがあって」  朝日の昇る前、何も音がしなくて、一面青色で、空気も英次も青に染まってた。その中でひとり静かに身じろぎもせずにいる英次の背中を思い出したんだ。  あの時さ、俺は、どうしたんだよ、って訊けなかった。何考えてるの、って尋ねられなかった。 「……凪」  喉奥がきゅっとした。あの時、英次が考えてたこと、今ならわかる気がする。親父たちにほんの一瞬思ったこと、それをずっと抱えて、罪悪感で自分の中いっぱいにして、苦しくて痛いことばっか選んでた。押田に消えろよって言われる前から自分が消えればいいって、そう思ってんだろ。 「バカ英次」  涙がぽろぽろ零れてく。でも、俺は落っこちるそれにかまわず、英次の頬を両手で包んで、そっと唇に触れた。もう泣き方だって綺麗かどうか気にできないくらい、涙が止まらないから、触れ合った唇がしょっぱかった。 「大好きだよ」  もっと言いたいことっつうかさ、あの青い朝にひとり起きて自分のことを考えてた英次に言いたかったこととか、英次は悪くないとか、そんな自分のことひどくしないでとか。 「大好きだから」  言ってあげたら、英次の気持ちがほぐれるような言葉とかさ。 「ごめんな」  そっと親指で涙を拭ってくれた。眉を寄せて、喉奥に苦いもの飲み込みながら笑ってる。バカ。英次のバカ。あと、もっと気の利いた言葉を言えない俺が一番バカだって呟いて、キス、したんだ。 「ンっ……ン、ん……ふっ」  英次の喉奥に苦いものがあるなら俺が代わりに飲んであげるからって、舌を突っ込んで絡ませて、喉鳴らして、ごくんってした。それからもう一回角度を変えて、深く深く、齧り付いて、少し伸びた俺と似た質感の髪に指を絡めて抱きついた。 「英次、大好きだよ」  泣きながら告白したことがあったっけ。好きって気持ちは雨みたいに勝手に降ってきて、こっちの都合なんて無視して全部びしょ濡れにしてく。傘を持ってないとかそんなん全然聞いてなんてもらえない。降って積もって、溜まって、もっと溜まって、溺れそうなくらい。で、好きが溢れて告白した。でも、英次はそれに答えてくれた。掌で受け止めてくれた。次から次に溢れて落っこちる雨粒みたいな「好き」全部受け取ってくれたんだ。 「好き」  今度は、今、零してる切なくて仕方ない涙を、好き、に変えて、そんで、ふたりで分けようよ。 「俺も、好きだよ」 「っ」 「凪のことを、愛してる」  雨みたいに降る涙が意味を変えた。ねぇ、英次、変わるんなら、もっとこう、ロマンチックな感じに変わればいいのに。 「もう、なんだよ」 「普通、そこで笑わないだろ」  愛してるって、あの英次に言ってもらえるなんて思ってなくて、だから、言われてびっくりして、そんですごく嬉しくてくすぐったくて、笑っちゃったじゃん。そのせいで、この涙が笑い泣きみたいになっちゃったじゃんか。 「普通なんて、知らないし」  クスクス笑いが止まるようにって、ぶちゅってキスをした。 「ン……」  英次の手が背中に回ってきつく抱き締めてくれて、笑いを止めるためのキスが、好きを交し合うキスに変わる。唇を啄ばんで、舌を絡めて、唾液が音を立てて、ふたりの間を繋げる、好きのキス。 「英次、早く、中、来て。英次のこと、欲しいよ」 「凪」 「俺の奥に早く来てよ。来て、そんで、たくさん俺の中可愛がって」  抱き合って跨って、自分から腰を下ろした。英次の唾液と、もうよくわかんないけど、気持ち良すぎてトロトロになったそこを硬くそそり立つ熱の塊にあてがう。 「ン、英次」  もうあんなふうに自分のこといじめないで。 「凪」 「あっ……ぁ」  俺の一番大事で、大好きで、大切なたったひとりの家族で、一生涯の恋人だから、もっと自分のことも、俺みたいに可愛がって。 「あ、あぁぁぁぁぁぁっ!」  こうやって深いところまで繋げてたら、俺も英次もないじゃん。もうぐちゃぐちゃに絡まって混ざり合って、ひとつになってるんだから。 「あ、英次っ、イっ」 「挿れただけだぞ?」 「だって! あっ! あぁぁっン」 「中が締まる、凪の中」  俺の中、気持ちイイ? 一度英次が抜けていく。ただそれだけなのに、射精したばっかの俺は欲しがって甘えて、口のところでぎゅっと英次のペニスを引き止める。 「あっはぁぁっ! ……ン」  そして、やらしい濡れた音をまとって一気に戻ってくる英次の塊に、背中を逸らして甘い悲鳴を上げた。俺の中が埋まる感じがすごく好き。英次でいっぱいになるとそれだけでイきそう。  深く英次が中に突き刺さってる。 「ぁ、んっ英次っ、奥、もっと来てっ」  腕で首にしがみ付いて、英次の腰に足でぎゅっと抱きついて、揺さ振られて突き上げられて、奥も全部気持ちイイから、自分でも腰を振って、英次のを中で締め付けて扱いたげる。 「ン、好き、英次」 「凪っ」 「あぁぁっン、そこ、いっぱい……して、気持ち、イイ」  荒く乱れた呼吸が英次のなのか、喘ぐ俺のものなのかわかんないくらい、ぐちゃぐちゃになって、一番近くで英次のこと感じたい。 「ン、もっと、して」 「っ」 「俺の中、英次でいっぱいにしてよ」  奥まで、繋がったところから溢れて零れて、とろとろになるくらい俺のこと愛してよ。 「ん、英次っ、ぁ、あぁぁっン、激し、イ……ん」  俺、英次のこと、愛してるよ。 「あっあぁっ……ン、ン、んっぁっ! 英次っ」 「っ」 「あ、イくっ、イっ……お願っ」  額をこつんって当てて、それからキスをした。 「お願い、英次と一緒に、イきたい」  だから、自分から深く迎え入れて、強く突き揺らされながら、いっぱいしゃぶりついた。 「あ、あっ、あ」 「凪」 「イくっ、あぁっン、……イっ……あぁぁぁぁぁぁぁっ!」  はぁ、はぁって、息乱しながら、また額をこつんって当てて、すごい熱い身体で抱き合って。 「ン、英次」  大好きな人が俺の中で気持ち良さそうにビクビクしてるのが嬉しくて、微笑んで、腹をさすったんだ。 「世界一、愛してるよ」  なんて言うから、また、ほら。 「英次の、バカ」  俺、泣いちゃったじゃんか。

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