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ケモ耳SS 3 マイビューティ

 本物の野獣みたいだ。  俺のことを軽々と抱きかかえたまま、普通に歩いて、そっと、ソファまで運んでもらってしまった。 「英次、ベッド、行かないの?」 「あとでな」  ドキドキした。まだ日の高い時間に、ベッドでじゃなくて、ソファで野獣に襲われる自分を想像して、身体の奥が反応してる。 「野獣にはベッドよりもこっちのほうがお似合いだろ? 姫君」 「あ、やぁっ……俺、はっ、姫なんかじゃっ」 「じゃあ、マイビューティー」 「バカっ……ンっ」  牙を首筋に突き立てられてゾクッとした。 「この角と、牙、とらないの?」 「あぁ」  英次がソファの上に膝立ちになるとスプリングが緩やかに沈み、歪んだソファの合皮がギシリと音を立てた。 「お前へのクリスマスプレゼントらしいからな」  そして、本当に、獲物に跨ってこれから食らい尽くす獣みたいに、この喉元に牙を立てる。自分のだってマーキングを唇でつけられて、甘い声で啼きながら、俺からその首を引き寄せた。姫君じゃないし。マイビューティーでもない。綺麗じゃなくていい。ただ、このクリスマスプレゼントを独り占めしたいごうつくばりなんだ。 「ちょうだい。ずっと、これが欲しかったんだ」  強欲な俺は秋にたくさん独り占めしたはずなのに、また、もっとたくさん独占したくて仕方なかった。だから、今、誰にもやらないって、この人に抱きついてる。 「なぁ、凪、俺もずっと欲しかったクリスマスプレゼントがあるんだ」 「?」 「くれるか?」  英次の欲しいものがあるのなら、全部。 「……いいよ」 「……」 「あげる、英次に、あげる」  そう囁いて、野獣に食べてもらえるように、悦んで、着ていたニットを捲り上げ、薄くて白い胸を曝け出した。 「あっあぁぁっン……やっ、乳首っ」  ソファから落っこちちゃいそうなほど、背中を反らせ、やだって言葉とは裏腹に、乳首の先端を英次の口の中へと押しつける。 「食べられっ、ちゃ、ぁっ」 「美味い」 「ンっ、ふっ……あぁっ」  いいよ。食べてよ。英次に可愛がられると嬉しくて、そこがコリコリになる。その感触を味わって欲しくて、英次の柔らかい舌に押しつけながら、喉奥がぎゅっとすぼまる。  野獣の牙がたまらない。先端を齧られると、何とも言えない切なさがこみ上げてきて、ひどくされたいとさえ思う。あの牙に本当に食べて欲しいみたいに、背中を反らせて、甘く啼いて、雄の興奮を駆り立てようとした。 「英次、俺のこと、欲し、かった?」  秋以来だから約二ヵ月ぶりのセックス。だから、ほぐすのにすごく時間をかけてくれる。快楽をもう知ってるから、こんなにじっくりされると逆にたまらない気持ちになるのに、まだ欲しいものをくれない。  二本の指が締め付けに反抗するように中を掻き混ぜ、口を開かせた。一糸纏わぬ姿でソファの上で絡まり合ってる。でも、英次の頭には相変わらず角があって、タテガミのような茶色の毛がごわごわしてて、そして、歯には優しくて意地悪な牙。噛んで、俺を翻弄してくれるやらしい牙に、今はたんまり乳首を可愛がってもらっていた。指で中をほぐされながら、乳首を、食べられる危うい快楽に濡れてる。 「あぁ、欲しかったよ」 「ン、ぁっ、英次っホント?」 「あぁ、お前、わかってないだろ?」 「?」  首を傾げると、その首筋に牙を突き立てられてから、きつくキスをされた。赤い印がまたひとつ身体に刻まれる。 「秋にこっち来た時、頭抱えたかったよ」 「?」 「色気、撒き散らしやがって」 「あっ、ダメっ、指で、孔ン中、そんなにかき回したらっ」  すごく濡れた音。指で掻き混ぜられるだけで、身体が疼いて痺れてしまう。 「さらわれるぞ、そんなんしてたら」 「も、やっ、バカ」  なんてこと言うんだよ。 「バカっ」  呆れる。そんな弱気なとこまで、美女と野獣の真似しなくていいのに。 「皆、知ってるし。俺に恋人がいるって」 「……」 「押田だって、ジョーンズだって、皆知ってるよ。俺の英次命を舐めるなよ。それに」  全部、ずっと前から英次のものなのに。 「俺のここ、で、わかるっ……ン、ぁっ、だろっ」 「っ」  自分から英次の手首を掴んで、中を掻き混ぜる指をもっと奥へと連れ込んだ。 「あぁぁあっン」  誰も、英次以外はここに侵入なんて許さない。 「秋に抱いてもらってから、ここ、いじってないから、ぁ、きつくなってる、でしょ」  指で確かめただけじゃわからない? 俺のそこ、もう二ヵ月も物足りないまま疼かせてたんだ。慰めるのは前だけ。 「英次命って、言ったじゃん、ンっ」  ズルリと抜けた指。まだほぐしたばかりのそこを晒して、すごく恥ずかしいけど。 「ここで、確かめてよ」  ここ、英次の形しか知らないって、中、掻き混ぜて確かめて。 「あっ……」  ずぷりと押し込まれた質量は凶暴なほどなのに、ゆっくり、じっくり、孔の口を拡げながら突き進んでくれるのが優しくて、たまらない。本物の野獣みたい。怖い顔して、ぶっきらぼうで不器用で、でも誰よりも優しく俺を抱き締めてくれる人。  周囲が呆れるほど俺のことを甘やかしてくれるけれど、たったひとり、自分のことはちょっとの甘えすら許してあげない厳しい人。 「凪っ」  だから、俺が英次のことを甘やかしてあげよう。こんなふうにその角で自分さえも痛めつけて律してばかりだった堅物頭を抱きかかえて、泣くことすら許してやらなかった瞼にキスをして、できるだけ甘い声で囁いてあげる。 「英次、俺の、一番奥まで、来てよ」  マイ、ビースト。貴方の全部を、俺が受け止めてあげるから。 「あ、ン」 「凪」 「もっと、奥、して?」  久しぶりの存在感はすごく大きくて太くて、熱くて、切なくなるから、抱き締めて、もっと深くへ自分から招き入れる。脚を大胆に広げながら、突き進んでくれる強靭さが嬉しくて、感極まって泣いちゃうんだ。 「あぁぁぁぁぁぁっ」  狭苦しいそこの奥まで深く突き立てられた瞬間、甘い悲鳴を上げた。 「あ……英次っ」  焦がれてやまなかった熱の塊を掻き抱いて、裸になって愛を交わすんだ。

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