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「おい、柚木!」
「ひっ? な、なになに!? お母さん!?」
「お前な、寝惚けるのもいい加減にしろ」
「あ……先生……」
やってしまった。
バスが学校に到着しても柚木はぐっすり寝続け、担任と運転手に揺り起こされて目覚めるという、高校二年生にして何とも気恥ずかしい失態に至った。
「なかなか起きないからみんな先に帰したぞ、全くもう」
担任に呆れられながらバスから降りてみれば、校庭解散でほとんどの同級生が下校しており、生徒の姿は疎らだった。
「あ、ユズくん」
同じバスに乗っていた友人を見かけ、どうして起こしてくれなかったのかと憤慨すれば「声かけたけどムニャムニャ言って起きないから、他の誰かが起こすかと思って先に降りた」と返されて絶句した。
「一緒帰る?」
「……トイレ行ってくる」
「じゃあ、ゲーム配信あるし、先に帰るわ」
膨れっ面で友人と別れた柚木は一人校舎に直行した。
静かだ。
一年生は先に遠足を終えており、三年生は現地解散、三時を過ぎたばかりで人気のない校内を進む。
一階にはオメガ性男子用のトイレがなく、生徒用玄関で上履きに履き替えて階段を上っていた柚木は、ふと思い出す。
『柚木、もう着いたよ』
(あの声って)
思わず踊り場で立ち止まった。
自分の頭にぎこちなく触れた。
(頭、撫でられたような気がする、あれって比良くんだった?)
「比良くんに呼びかけられても寝続けたなんて」
柚木は自分の失態に落ち込んだ。
トイレを済ませると来た道とは違うルートで一階へとぼとぼ移動した。
距離的にはほぼ同じ、家族に今日の失態は黙っておこうと心に決めて階段を下り、生徒用玄関に続く廊下へ出たのだが。
「え」
柚木は棒立ちになった。
角を曲がったところで倒れていた彼に目を見開かせた。
「……比良くん……?」
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