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「ここにいろ」 「比良くん、先生呼ばなきゃ、倒れるくらい具合悪いんだよね!?」 「どこにも行くな」 「ッ……いでででで!!」 腕を掴む手にさらに力がこもり、ミシミシと骨身が軋んで柚木は素直に悲鳴を上げた。 (比良くん、具合悪いのに力ありすぎじゃ!?) 痛がる柚木を無視して比良はおもむろに低く呟く。 「……目が痛い……」 「え?」 (眼痛(がんつう)? それって、もしかしてーー) 一瞬、頭に過ぎったある懸念。 柚木はすぐに打ち消した。 柔和だった言葉遣いが急に命令口調に変化したのも体調不良のせいだと自分自身に言い聞かせ、おっかなびっくり比良の額に手を当ててみた。 (あっつ!!) 「大至急、保健室の先生呼んでくる!」 下手に体を動かすのも憚られる。 一階突き当たりの保健室にいるであろう養護教諭を呼ぶことにした柚木は、ぎゅうぎゅう腕を掴んでいる比良の手を引き剥がそうとした。 「は、剥がせない〜〜ッ……だっ……誰か!! 誰かいませんかーー!?」 比良を助けるために加勢を求めようと柚木は大声を上げた。 次の瞬間。 ぐるりと視界が回転した。 「いッ……」 突然、身を起こした比良に乱暴に押し倒され、廊下に背中をぶつけた柚木は堪らず目を閉じる。 (な……何が起こって……?) 「ハァ……ッ」 それは。 獣めいた息遣い。 ビクリと身を震わせた柚木が瞠目すれば。 いつの間に赤く染まった比良の眼が正に肉食獣じみた獰猛な眼差しを放っていた。 (……ああ、やっぱりだった……)

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