22 / 333
4-6
(え?)
思いがけない感覚。
痛みを予想していた柚木は戸惑う。
唇を覆い尽くした微熱にありとあらゆる思考が吹っ飛んだ。
どうしたらいいのかわからず、硬直していた初心な唇を割って、口内へ突き進んできた舌尖。
ペースも情緒もどこ吹く風で掻き回す。
十六年間守られてきた純潔を貪り、困惑する柚木を置き去りにして比良は本能のままに口づける。
貴重なファーストキスの一瞬を惨 たらしく傲然 と蹴散らした。
(あれ?)
比良くんにキスされてる。
なんか、すごい、ぶちゅぶちゅされてる。
(あれれれれ!?)
感情がついていかずに呆然としていた柚木は目を開く。
数センチ先にあった、薄目がちに自分を見つめる赤い眼と視線を分かち合うと、ゾクリと背筋を戦慄 かせた。
「んっ……!」
比良は柚木の両手首を掲示板に力任せに縫い止めた。
なだらかな背中を窮屈そうに屈め、忙しげに角度を変え、甚振 るようにキスをした。
「んむむ……っ……っ……んん……!?」
柚木はぎょっとする。
いきなり抱き上げられて両足が宙に浮いた。
掲示板に背中が擦れ、比良に破かれていたポスターが歪み、さらに無惨な有り様と化す。
(苦しい……!)
陰ながら崇拝していた憧れのクラスメートとのファーストキス。
柚木は怯えた。
騒いだら人が来るので健気にじっと耐え、ケダモノさながらに唇を奪う比良の好きなようにさせた。
(勘違い、してた)
食わせてっていうのは、食事的な意味じゃなくて、性的な……こういうことだったんだ。
「んっ、ん……っ……ふ……」
でも、これ、食べられてるのと同じだ。
マストの比良くんに、おれの唇、根こそぎ奪われていくみたい……。
「ン……ぅ……っ」
怖がって縮こまっていた舌が乱暴に絡めとられていく。
纏わりつかれて、擦れ合って、二人分の唾液で濡れそぼつ。
真下から深々とかぶりつかれて大胆に啜られた。
「ン、ン、ン……!」
行き場に迷っていた柚木の手が、品のいいアイボリー色のセーターをきゅっと掴んだ。
気がつけば。
形振り構わず求められている唇が、自分を軽々と抱っこする比良と重なり合う場所が熱くなっていた。
(……初キスが、まさかこんな、台風みたいな荒れ模様になるなんて……)
ともだちにシェアしよう!