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(え?) 思いがけない感覚。 痛みを予想していた柚木は戸惑う。 唇を覆い尽くした微熱にありとあらゆる思考が吹っ飛んだ。 どうしたらいいのかわからず、硬直していた初心な唇を割って、口内へ突き進んできた舌尖。 ペースも情緒もどこ吹く風で掻き回す。 十六年間守られてきた純潔を貪り、困惑する柚木を置き去りにして比良は本能のままに口づける。 貴重なファーストキスの一瞬を(むご)たらしく傲然(ごうぜん)と蹴散らした。 (あれ?) 比良くんにキスされてる。 なんか、すごい、ぶちゅぶちゅされてる。 (あれれれれ!?) 感情がついていかずに呆然としていた柚木は目を開く。 数センチ先にあった、薄目がちに自分を見つめる赤い眼と視線を分かち合うと、ゾクリと背筋を戦慄(わなな)かせた。 「んっ……!」 比良は柚木の両手首を掲示板に力任せに縫い止めた。 なだらかな背中を窮屈そうに屈め、忙しげに角度を変え、甚振(いたぶ)るようにキスをした。 「んむむ……っ……っ……んん……!?」 柚木はぎょっとする。 いきなり抱き上げられて両足が宙に浮いた。 掲示板に背中が擦れ、比良に破かれていたポスターが歪み、さらに無惨な有り様と化す。 (苦しい……!) 陰ながら崇拝していた憧れのクラスメートとのファーストキス。 柚木は怯えた。 騒いだら人が来るので健気にじっと耐え、ケダモノさながらに唇を奪う比良の好きなようにさせた。 (勘違い、してた) 食わせてっていうのは、食事的な意味じゃなくて、性的な……こういうことだったんだ。 「んっ、ん……っ……ふ……」 でも、これ、食べられてるのと同じだ。 マストの比良くんに、おれの唇、根こそぎ奪われていくみたい……。 「ン……ぅ……っ」 怖がって縮こまっていた舌が乱暴に絡めとられていく。 纏わりつかれて、擦れ合って、二人分の唾液で濡れそぼつ。 真下から深々とかぶりつかれて大胆に啜られた。 「ン、ン、ン……!」 行き場に迷っていた柚木の手が、品のいいアイボリー色のセーターをきゅっと掴んだ。 気がつけば。 形振り構わず求められている唇が、自分を軽々と抱っこする比良と重なり合う場所が熱くなっていた。 (……初キスが、まさかこんな、台風みたいな荒れ模様になるなんて……)

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