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「ユズくん、エビ天あるけど食べる? おーい、聞いてる?」
「さっきからぼーっとしてんな」
「掲示板で頭打ったんじゃ?」
(比良くんはとりあえず大丈夫そうだった)
『ポスターを破ったのは俺なんだろう?』
比良は難色を示したが、口裏を合わせるために些細な嘘の共犯を担ってもらうことにした。
『もしかして本当に具合が悪いのか?』
『違う違う、ほんとに平気、比良くんこそ大丈夫?』
『俺はもう落ち着いた』
『保健室の先生にマストのこと相談してみる?』
『……』
比良は柚木を保健室に送り届けると教室へ速やかに戻っていった。
授業の半分を保健室で意味もなく過ごし、休み時間になって柚木も教室へ戻ってみれば、マストの片鱗などどこにもない比良が取り巻きに囲まれていた。
『彼、一体何なの、自分が保健室で休んでくるなんて』
『倒れたシュウくんが先に戻ってきて、本末転倒だよな』
柚木は聞こえないフリを心がけ、他のアルファが口にした批判をスルーした。
ただ彼の言葉だけは鼓膜にしっかりと刻みつけられた。
『柚木のおかげで俺は回復したんだ。俺は柚木に感謝しかない』
(あれって、おれにぶちゅぶちゅして、マストが落ち着いたってこと?)
マストって一日に何回もなったりするんだろうか。
人によってバラバラ?
少しでも症状を軽くする方法ってないのかな。
(……発情期は病気じゃないんだから、症状なんて言い方、よくないか)
「あ」
比良が教室に戻ってきた。
視線が合った柚木はすかさず顔を伏せる。
唇にまざまざと蘇る感触。
簡単に抱き上げられて、口の中が微熱でいっぱいになった、貪られる一方だったひと時。
(やばい)
どんな顔をして比良くんと接したらいいのか、わからない。
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