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「まだ家族に言ってない!?」 柚木はつい大きな声を出してしまった。 「ああ」 「そ……そっか、もしかしてタイミングが合わなかったとか?」 「それもある」 校内に入り、伏し目がちに階段を上っていた柚木は隣を歩く比良をチラリと見上げる。 (それでも早めに言った方がいいと思う……です) でも、うん、おれにとやかく言う資格はない。 もしもおれがアルファで、なおかつマストになったとしたら……うーん、へっぽこオメガの自分からはかけ離れ過ぎて想像もつかないけど。 不安や恐怖を共有してほしくて真っ先に誰かに言いそうだ。 (やっぱり比良くんは強いんだなぁ) でもリスクがある。 また教室でマストになるかもしれない。 それなのに、どうして学校に来るんだろう。 優等生だからって、その辺は無理しなくてもいいのに……。 「張り直されてる」 柚木はハッとする。 二階と三階の中間地点である踊り場に差し掛かったところで、比良は、掲示板に目を向けていた。 (う、わ、ぁ) まだ記憶に新しい昨日のキスを思い出す。 妙に意識してしまい、耳まで赤くして、必要以上にスクールバッグの取っ手を握り締めた。 「生徒会のポスターだったんだな。柚木にも運営にも申し訳ないことをした」 (比良くんは何回目のキスだったんだろう……な) 一限目は体育の授業だった。 「ちゃんと並べ、食み出してんじゃねェ」 「うっ……なじを抓るな~~!!」 体育館のステージ前、背の順で整列していた柚木は体育委員の谷に恒例のちょっかいを出されて飛び上がった。 女子は校庭でサッカー、男子はバレーであり、間隔をおいて準備運動を開始する。 (体育の授業くらい休んでもよかったのでは) 上半身のストレッチをする際、さり気ない風を装って背が高いゾーンにいる比良を確認し、柚木は愕然とした。 「シュウくん、具合悪いのか?」 深く項垂れて片手で側頭部を押さえ、バスケ部やバレー部に所属する長身のクラスメートから心配されている姿に、さっと血の気が引いた。 (今回は教室じゃなくて体育館で!?) 体育教師が異変に気づくより先に柚木は彼の元へ駆けつけた。 屈んで覗き込み、すでに赤くなり始めている眼に息を呑んだ。 「そこ、どうしたんだ? 誰か体調でも崩したか」 「センセイ、シュウくんがちょっと……」 (やばいやばいやばいやばい) どうしよう、このままじゃあ、みんなの前で比良くんがマストになる……!!

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