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「ちょっと失礼します!」 柚木はマストへの変貌を他の誰にも見られないよう苦肉の策を講じた。 自分が羽織っていたスタンドカラーのジャージ上を脱ぐなり、比良の頭にバサリと被せた。 「は? どういうつもりだよ、保健委員」 「どうした、柚木、一体何をやってる?」 比良を心配していたクラスメートらの反感を一斉に買い、様子を見にやってきた体育教師からは困惑された。 柚木は挫けそうになる。 だが、まだ周囲に明かされていない秘密を守り通すため、何とか踏ん張った。 「おっ、落ち着かせるために被せました! 混乱してる動物って目隠しすると落ち着くじゃないですか!」 (……あちゃー、今のはへっぽこオメガでもわかります、だめだめ回答です) 「昨日からふざけっぱなしか、保健委員、俺達をおちょくるな」 (わーん、益々怒らせちゃった!) 「お前みたいなのに任せられるかよ」 「シュウくんから今すぐ離れろ、下層の分際で馴れ馴れしい」 同年代の人間にもオメガヘイトがいる。 これまでの学校生活で階層制を重んじる思想に柚木は度々遭遇してきた。 今朝、比良と一緒に登校したときも自分にだけ注がれる刺々しい眼差しを痛感していた。 「下層の分際でごめんなさい! でも今は勘弁してください!」 一刻を争う今、いちいち中傷になど構っていられず、比良の片腕を引っ張って彼らの脇をすり抜けようとした。 「うわ……っ」 柚木はびっくりした。 自分を詰ったアルファ性のクラスメートが情けない声を上げ、何事かと顧みれば。 ジャージを頭から被った比良が彼の胸倉を力任せに掴んでいた。 (うわぁーーーー!!) 心の中で悲鳴を上げた柚木は、密かに息を荒くしている比良に必死になって呼びかけた。 「比良くん! 離そう!? 早く行こう!!」 まだ<比良くん>としての意識があるのか。 比良は片手で鷲掴みにしていた相手のジャージを言われた通りに離した。 「保健委員、行ってきます!!」 困惑し続けている体育教師とクラスメートの男子らに見送られ、柚木は、マストに成り行くアルファを連れて体育館を後にした。

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