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むしゃぶられる唇。 「んっ……んっ……んっ……!」 両手で頭を固定され、頻りに髪を掻き乱されながら、無慈悲な舌に口内まで荒らされる。 糸引く唾液であっという間にだらしなく濡れた下顎。 吐息まで貪欲に平らげられた。 「んっ……ぷ……っ」 校舎の片隅、消灯されて薄明るいトイレに引っ切り無しに紡がれるリップ音。 むしろ咀嚼音と言うべきか。 呼吸が制限されて顔を真っ赤にした柚木は、鼓膜にダイレクトに響く何とも言えない音色に、執拗に暴れ回る舌尖に眉根を寄せた。 (比良くん、包帯から絆創膏に貼り替えてくれて、よかった) 意識を別のところへ逃がして現実からの逃避に挑もうとしたが。 「ふぁ」 上向かされ、唇の奥まで虐げられて、どうにもうまくいかない。 マストで正気を失っている比良の荒々しい口づけに五感が容易く支配されていく。 (大丈夫、もう終わる、いつもの比良くんがもうすぐ戻ってくる) 柚木は目尻に涙を滲ませて<比良くん>の帰還を願った。 マストから脱して優しい笑顔を浮かべてくれるのを今か今かと待ち望んだ。 「はぁ……っ……」 やたら長く思えた数分間の捕食キス。 ずっと頑なに目を閉じていた柚木は、やっと比良の唇が離れていき、どっと息を吐き出した。 半袖シャツで肌寒かったはずが、熱い、思考が霞んでクラクラしている。 「はぁ……は……」 (お……終わった……比良くん、戻ってきてくれたーー) 「足りない」 柚木は思わず目を見開いた。 物欲しげに食い入るように自分を見つめている赤い眼に心臓をブルリと震わせた。 (ぜんっぜん戻ってない!!) 「比良くん、どしたの? なんで戻ってないの? 昨日はこのタイミングで戻ったーー」 「ぜんぜん、足りない」 熱もつ両手で顔を挟み込まれた。 「もっと」 キスする寸前の距離で請われる。 「もっと、柚木」

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