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鍵をかけたドアに背中を押しつけ、無邪気なラッコの姿を思い浮かべ、冷静さを取り戻そうとしていたら。 「柚木」 マストから脱し、いち早く冷静さを取り戻した比良にドアをノックされた。 「俺は……柚木に何をした?」 ドア越しに届いた比良の声にポロリと涙する。 一先ずトイレットペーパーで下半身をキレイキレイして、身だしなみを整えてから、深呼吸した。 「おれは大丈夫」 「柚木」 「今、一限の体育が終わったところ。比良くん、教室に戻りなよ」 「柚木、俺は……お前とセックスしたのか?」 (ぶほぉッッッ) 「し、してない、断じてそこまでしてない」 「そこまで? じゃあ何をしたんだ?」 「気にしないで、比良くん、おれは平気だから。みんな心配してるから教室に戻って」 「柚木も一緒に戻ろう」 「えーと、おれは後から行く」 「……」 「お願い。先に戻ってください」 休み時間に入り、生徒の行き来で廊下がざわつき出す。 「クラスメートだろ。敬語なんて使わなくていい」 比良はそう言うと、閉められたドア上に柚木のジャージを引っ掛けてトイレを出ていった。 「比良くん、ごめん」 柚木は引っ張り下ろした自分のジャージを両手で握り締めた。 マストで正気を失っていた比良に流されて、成す術もなく感じ、不謹慎にも達してしまい、何も知らない品行方正な<比良くん>に罪悪感を抱く。 その一方で。 今まで誰にも明かしたことのない秘部に纏わりつく余韻。 あられもない昂揚感が長引いて、うなじまでジンジンと疼いているのも確かだった。 (おれは淫乱オメガなんかじゃない……ただのへっぽこオメガだもん……)

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