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6-2
「昨日の放課後、休部届を出してきた」
「えっ。弓道部、休むんだ?」
「ああ」
「そっか……」
(的だけじゃない、あの袴姿にどれだけのハートが射貫かれたことか)
人の行き来が絶えないバス通り、緑が生い茂る街路樹の下を二人で並んで歩く。
普段ならば一人で通る見慣れた通学路。
今日は隣に比良がいる。
不思議な、くすぐったい気持ちになった。
「昨日、トイレで」
「ッ……」
「……そんなに身構えるくらい、俺は柚木にひどいことをしたのか?」
「ひどいっていうか、え……えっちなことっていうか」
「俺は射精していたし、柚木の服もかなり乱れていた」
(おれは比良くんに朝イチから何てことを言わせてるんだ……!)
「柚木の体、傷つけなかっただろうか……?」
「比良くん、ほんとに何も覚えてないんだ……?」
アイボリーのセーターを腕捲りしていた比良は頷いた。
「じゃあ、あれも? 体育館で友達の胸倉掴んだことも覚えてない?」
「覚えていない。整列して、授業が始まって、準備運動の途中から意識が混濁して。気がついたらトイレにいた」
伏し目がちでいた柚木は前方を真っ直ぐに見据える比良をチラリと仰ぐ。
「昨日も言ったけど、せ……本番はしてないから大丈夫だよ」
比良の視線が自分に向けられると慌てて顔を伏せた。
(……おれだけが比良くんの秘密を知ってる……)
不謹慎極まりないけど。
何かと大変なんだけど。
(ちょっとだけ嬉しいーー)
「危ない」
突然、比良に肩を抱かれて引き寄せられた。
その直後、後ろから来ていた自転車が歩道の真ん中を走り抜けていった。
「遅刻しそうなんだろうか」
他の通行人も驚いている自転車のマナーぶりを遠目にし、比良はため息をつく。
頼りない肩にしっかりと回された手。
クラスメートを受け止めて一切のブレがない体幹。
「……」
比良の胸板に片頬が着地した柚木は息が止まりそうになっていた。
(あったかい)
呼吸も二の次にして比良の温もりに五感を攫われていると、おもむろに額に手をあてがわれた。
「柚木、顔が赤い」
急接近してきた黒曜石の瞳に視線を束縛される。
逸らすこともできずに、ただただ魅入られた。
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