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6-4
募る焦燥感に雁字搦めになり、柚木は視聴覚室で行われた授業にちっとも集中できなかった。
四限目が終わって昼休みになる。
クラスメートの大半が嬉々として席を立つ中、一人、長テーブルに突っ伏している生徒がいた。
「比良クン、熟睡してるみたい」
「珍しいな」
「最近、疲れてるのよ、情緒不安定なオメガの世話で」
「ああ、あの保健委員か」
遮光カーテンで日光を遮断した広い室内。
蛍光灯の明かりを広い背中に浴びた比良は身動き一つしない。
彼のそばにいたアルファ性の男女らに一瞥された柚木は、聞こえないフリをして視聴覚室を後にした。
「……ペンケース、忘れてきた」
教室に戻り、いつものメンバーと昼食をとろうとして、やめた。
忘れ物をしたと嘘をついて、一人、特別棟にある視聴覚室へ行ってみた。
上階の音楽室から自主練習に励む吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。
二階の突き当たり、念のためノックを二回して、重たい扉を恐る恐る開いた。
一ヶ所だけ開かれた遮光カーテン。
窓際の席で眠りにつく一人のアルファ。
「比良くん……」
空調は止まっていたが、寒くも暑くもない適温の室内へ柚木は進む。
(ううん、多分、もしかしたら)
テキストなどは気を利かせたクラスメートが教室へ持ち帰っており、何もないテーブルに俯せた彼の背中へ、柚木は手を伸ばそうとした。
触れる前に素早く手首を捕らわれた。
「喰わせて、柚木」
赤い目をしたマストの彼に笑いかけられて、柚木は、少々ビクつきながらも密かに決意する。
(いつもの比良くんを早急に取り戻すために……性処理係におれはなる!!)
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