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『苦手じゃないのなら俺と連絡先を交換してくれないか……?』
メールアプリの連絡先を交換して二週間ほど経過したが、まだ一度も遣り取りしていない。
多忙だという家族に比良がマストの件を知らせる様子もなく、どうしたものかと柚木は頭を悩ませていた。
「何はともあれ、お近づきになれてよかったじゃねぇか」
開け放されたカーテン、窓の外で降り続く長雨の気配に気持ちまでどんよりしかかっていた柚木は、谷を見た。
「憧れの王子様だったろ」
「その言い方、微妙です」
「いけ好かねぇ、胸クソ悪ぃ、憧れのキラキラピカピカなナルシスト」
「それもうただの悪口じゃ?」
<へっぽこオメガ>の名付け親で口の悪い谷だが。
差別的なスラングは決して用いない。
(谷くんは他のアルファと根っこから違う)
比良くんともまた違っていて、砕けてるというか。
階層を特別視しないで普通に一緒にいてくれる。
「でもなー、そのキスマークは隠した方が賢明かと」
柚木は心臓を縮み上がらせた。
反射的に片手でうなじを覆い隠し、あからさまに動揺していたら、谷にクックと笑われた。
「引っ掛かってやんの」
「ッ……おいっ、こらぁっ」
「おー、こわ。でも実際、前についてましたしねェ」
「ッ……」
「触ったら、えらく過剰反応したし」
「あれはっ……谷くんが変な触り方したから、です」
「実は今日もガチでついてたりします?」
「ひっ! く、くすぐったい~~……!」
片手で隠したうなじの上辺りを抓られて柚木は腹を捩じらせる。
以前から谷が仕掛けてくるイタズラ紛いのスキンシップにヒィヒィしていたら。
「やめろ」
まだ美術室に見当たらなかったはずの比良がいきなり間に割って入ってきた。
ちょっかいを出す谷の片腕を掴んだ彼の、その片目が赤く染まっていることに素早く気がついて、柚木はさっと青ざめた。
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