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10-1-回想

「皆に大事な知らせがある」 中間考査の最終日だった。 テストが終了して掃除を済ませた後、帰りのホームルームで担任教師は改まった態度で切り出した。 「先週から学校を休んでいる比良のことだがーー」 「やっぱりマストだったんですか!?」 アルファ性の女子生徒がフライング気味に質問し、担任教師は注意することもなく神妙な面持ちで頷いてみせた。 薫風が香る五月の終わり頃。 二人だけの秘密が消失していくのを教室の片隅でずっと感じていた柚木は、首筋と手の甲の痛みがぶり返したような気がして、目を閉じた……。 「史上初のオール赤点かもしんない」 「一応、回答は全部埋めたんだろ? 名前だって書き忘れたりしてねぇよな?」 「……」 「マジですか」 テスト明け、たまに寄り道するファストフード店で柚木は谷とランチを食べていた。 「お、大目に見てくんないかな? 一応、おれ、階段転げ落ちたんだよ?」 「異常ゼロ、日常生活を送るのに何ら支障なし、それが診断結果だったよな?」 「うう……」 ハンバーガーにかぶりつく谷の言葉に、ポテトをちまちま摘まんでいた柚木はがっくり項垂れる。 先週、階段から転落した後、柚木は救急車で近場の病院に搬送された。 (落ちた直後のことはあんまり覚えていない) 救急外来に運び込まされた際、混濁していた意識は大分鮮明になっていた。 診察の結果、軽度な頭部打撲を負って額にたんこぶ、手足も打撲程度で幸いにも骨折には至らずに済んだ。 ひょっとして特例で自分だけテストが延期されるのでは、そんな期待も空しく医者に問題ないと診断され、ちょっとばっかしガッカリした。 特例が通されたのは比良だけ。 登校の目処が立ち次第、特別追試の段取りが組まれるとのことだった。 柚木が階段から転落し、その翌日より彼は一度も学校に来ていない。 先週の欠席初日には休学届が提出されたとだけ担任から説明があった。 生徒が動揺してテスト勉強に支障が出ないよう、詳しい報告は敢えて先延ばしにされたようだが、学校サイドの配慮に反して皮肉にも噂は校内に広まっていた。 「比良クン、やっぱりマストだったんだ?」 「同じクラスのアルファとケンカしたとか」 「ガチで<別格のアルファ>じゃ? 無敵スギ」 校外にいる今だって同じ学校と思しきグループ客が話しているのが店内のどこからか聞こえてくる。 (今、比良くんは大学病院に検査入院中だ) 退院がいつになるのかはわかっていない……。

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