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比良の両親は二人揃って画期的な抑制剤<サルベーション>を誕生させた研究チームのメンバーだった。
父親は免疫学講座の教授、母親の櫻哉は同講座の技能スタッフであり、自宅から程近い国立大医学部に籍を置く研究者であったのだ。
「そうだな」
柚木と同じく櫻哉に謝罪されていた谷は、ハンバーガーを食べ終えるとイスの背もたれに踏ん反り返った。
「医療関係者っていうのは聞いたことあったけどな」
「へぇ……」
「入学式、初対面の俺らにあれだけ熱弁してきたのも頷ける」
「うん……」
入学式、初対面で理路整然としたスピーチを披露してくれた比良を思い出し、柚木はちょっとだけ笑った。
「その開発チームスタッフの息子がマストになるなんて皮肉なもんだな」
その言葉には頷けずに表情を曇らせた。
階段の踊り場で手がつけられない凶暴性に駆られていた<マストくん>の姿が瞼の裏に色濃く蘇る。
「谷くん……」
柚木はソファ席から背中をやや浮かせ、向かい側でナゲットを頬張る谷の喉元をじっと見た。
「首、痛くなったりしない? 大丈夫?」
伸びてきたパツキン髪をハーフアップに結んでいた谷は苦笑する。
「アイツに絞め上げられたのは先週、もう十日くらい前だぞ」
「そうなんだけど、あんまりにもショッキングだったんで」
「お前の方こそ大丈夫なのかよ」
「打ったところは痛むよ、湿布貼ってる。でも大豆が臭がって吠えるんだよね」
「それはともかく。階段落ちる前に噛みつかれただろ?」
「あ……」
運び込まれた病院で手当てをしてもらい、今はもうほぼ癒えてうっすら残る痛々しげな二カ所のキスマーク。
たまに浅く疼く首筋を柚木は我知らず慈しむみたいに撫でた……。
「平気」
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