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11-1-谷くん
新緑から深緑に落ち着いた街路樹が通行人の頭上を彩る、六月の始まり頃。
「……ぜんっぶ平均点以下だった……」
すべての答案が返却され、散々な結果に終わった中間考査に柚木のテンションは降下する一方だった。
「赤点はとらなかったんだろ、大したモンじゃねーか」
「谷くん、数学と物理はクラス一位だったよね、それもう嫌味にしか聞こえないよね」
休み時間、柚木の机に腰かけて足を組んだ谷は窓際の空席に目をやる。
「いつも最高得点とってる奴がお留守だったからな」
比良が学校を休学して半月近くが経過した。
担任から経過の説明は特になく、現在の状況は不明だ。
(まさかこのまま学校辞めるとか)
未だに挨拶メールすらしていない柚木はモヤモヤした心境を持て余す日々にあった。
明確な対処法がないマスト。
共存していくしか道はない。
(比良くんの両親、研究者だし、マストにも効く抑制剤をドカーンと開発したり……)
……そんな都合よくいかない、あの<サルベーション>だって莫大な費用と年月がかかったっていうし。
でも、もしも、万に一つ。
もっとすごい抑制剤開発に成功したら。
(マストくんは消えてしまうんだ)
昼休みだった。
ベータの友人と他愛ない話をしながらお弁当を食べていた柚木は、教室の空気がガラリと一変したのにすぐに気がついた。
「比良クンだ」
向かい側にいた友達の言葉に心臓がブルリと震える。
口いっぱいに頬張っていた鶏そぼろごはんを思わず丸呑みにしてしまった。
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