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「ごめん」
被害者であるはずの柚木は謝った。
「比良くんが話をする時間もなかったくらい、お母さん、忙しい人だったのに。病院やウチにまで来てくれて、きっと大変だったよね」
生徒が疎らにいる廊下で、自分の症状が思いの外軽かったことを報告する前に、ずっと気にしていた櫻哉の件に触れた。
「あの日、本当は比良くんのところへ真っ先に駆けつけたかったはずなのに」
(比良くん、振り返ってくれない)
ずっと自分に背中を向けている別格のアルファにオメガ男子は悄気 た。
それでも笑顔を浮かべた。
自分が落ち込んでいる場合ではないと、萎みそうになる心を奮い立たせた。
「それから、もう聞いてると思うけど、たんこぶができた程度だったんだよね!」
「……」
「救急車で搬送とか大袈裟すぎたかも、先生たち、よっぽど慌ててたのかも!」
「……」
(比良くん、記憶喪失でおれのことだけ忘れちゃったとか?)
何のリアクションも返さない比良に柚木は途方に暮れた。
先程までの態度とまるで違う。
他のクラスメートは受け入れられたのに、自分だけ拒絶されている。
家に来たり連絡先を交換したり、夢のようだった今までの日々はやっぱり夢だったのかとさえ思いかけた。
「柚木はやっぱり優しいな」
やっと比良が一言呟いた。
柚木は、珍しくズボンのポケットに片手を突っ込んだ彼の広い背中を見つめ直す。
憧れのクラスメートからの言葉がもっとほしいと、次の声を待ち望んだ。
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