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しかし、後ろから腕を掴まれたかと思えば比良の背後から唐突に引き離された。
「比良クンに近づかないで」
驚いて向けた視線の先にはクラスメートでアルファの女子がいた。
比良が登校していることを聞きつけ、食堂から駆けつけてきたようだ。
「どこまで比良クンに気負わせるつもりなの」
彼女が怒っているのは一目瞭然であり、これまでにもオメガヘイトの思想をちらつかせていたアルファから柚木は距離をとろうとした。
「いい加減にして」
彼女は柚木の腕を掴んだまま言い放つ。
「貴方は普通に学校に来て、比良クンは休学せざるをえないなんて、不公平よ!」
廊下を行き来していたベータの生徒がビクッとするほどの剣幕だった。
教室から顔を出す生徒もいた。
教師陣すら煙に巻き、他のアルファから才色兼備と謳われている彼女は<へっぽこオメガ>と揶揄されている柚木を真正面から睨みつけた。
「ねぇ、ヘラヘラしないで? 私達アルファが羨望している比良クンに馴れ馴れしく近づかないで? 住む世界が違うことは貴方の頭でも理解できるわよね? 話しかけるのだって許されないことなの、彼にとって貴方は無価値でしかないの、わかる?」
ーー二穴 のくせに図々しいーー
柚木は小さく息を呑んだ。
オメガ性の男体を中傷する差別的なスラングを真っ向から浴びせられた。
頭の天辺から足元まで一気に冷えていくような感覚。
聖域のうなじが粟立つ。
(……月とスッポン、そんなこと、言われなくてもわかってる……)
一先ず、その場を丸く収めるために謝ろうとした、だがスラングを投げつけられたショックでなかなか言葉が出てこない。
どうしようと焦燥していたら。
すぐ後ろから友達の声が、した。
「謝るんじゃねぇぞ、ユズ」
ばしゃ!!!!
手足の先まで冷たくなって、廊下の片隅で氷像さながらに凍りつきかけていた柚木は目を見張らせる。
真正面にいたアルファ女子が頭から水をぶっかけられ、ずぶ濡れになった姿に呆気にとられた。
「頭、冷やして差し上げました」
谷は空になったバケツを持って柚木の隣に立った。
「Would you like more water? 」
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