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「だ、大豆、もっと野太い声出して、もしかしたら泥棒かも、猛犬っぽく吠えて追っ払って」
柚木は小柄な大豆をぎゅっして無理な注文を出した。
「大型犬みたいに鳴いて、ほらほら」
「わんっ」
「可愛すぎ〜、そんな可愛い声じゃ追っ払えないってば~」
夕方五時前にしては暗く、外は土砂降りの雨、すりガラスには不穏なシルエット。
まぁまぁ怖がりな柚木は覚悟を決めた。
大豆を抱っこして恐る恐る玄関ドアへ近づいていく。
「ど……どちら様ですか……!!」
精一杯、声を張り上げて尋ねたが返事はなし。
(怪しすぎる)
膝丈のズボンのポケットに携帯を入れている柚木は、通報も念頭において、明かりを点す余裕もなく玄関ドアの前に立った。
「警察呼びますけど!?」
思い切って強気に出てみた。
すると、すりガラスに長居していたシルエットはゆっくりと遠ざかり、消えた。
「な……なんだよ、なんだよ~……怖いじゃん、めちゃくちゃホラーじゃん、大豆~」
柚木は腕の中の大豆に激しく頬擦りし、一気に高まった不安や恐怖心を紛らわせようとした。
「……」
謎の訪問者に怯えていた双眸が、ふと、大きく見開かれた。
急に頭を擡げた一つの「もしかしたら」。
まさか、そんなことあるわけないと、突発的にはたらいた直感を柚木はすぐさま打ち消す。
しかし、後ろ髪を引かれて、じっとしていられなくなって。
ゲートの内側に大豆を下ろし、サンダルを突っかけて、玄関ドアを開け放った。
歩道側から門扉を閉じようとしていた比良と目が合う。
「比良くん」
「柚木」
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