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外で騒々しく奏でられる雨音も忘れて柚木は安堵した。
カリスマ美容師も負ける極上のタオルドライに眠気まで押し寄せてきた。
「……おれはもう十分、ありがとう、比良くん……」
自分より体が冷えているだろう比良を気遣い、延々と身を任せていたいところを、断腸の思いで早々と「もう結構です」アピールした。
「あ。今すぐ新しいタオル持ってくる」
「このタオルでいい」
薄暗い玄関に長居させるのも忍びなく、柚木はためらいがちに提案する。
「ちらかってるけど、おれの部屋、来る……?」
大豆のいるリビングだと落ち着いて話ができないかもしれない。
土砂降りの雨の中をわざわざやってきた比良の来訪を重んじての選択だった。
畳んだタオルを肩に押し当てていた比良は、雨滴を含んでしっとりした睫毛を伏せ、頷く。
「さっきは怖がらせて悪かった」
「あっ、いえいえ、こっちこそ……通報とか、ちょっと大袈裟だったかも」
「大豆も。びっくりしただろう。柚木のことを守ろうとあんなに鳴いて、とても賢いんだな」
ゲートに前脚を引っ掛けて尻尾を振っている大豆に、水も滴るアルファ男子は笑いかけた。
「俺も見習わなきゃな」
柚木は二階の自室へ比良を案内した。
部屋の明かりを点け、起床時に自分で不器用に整えていたベッドを慌てて設 え直し、勉強デスク前の回転イスに座るよう促す。
「お邪魔します」
「何か飲む?」
比良は伏し目がちに首を左右に振った。
(お母さんはどうしたんだろう)
一緒に学校に来ていたという櫻哉の所在を気にしつつ、柚木はベッドに浅く腰掛ける。
鼓膜から遠退いていた雨音が盛大に戻ってきた。
部屋に流れる沈黙が際立って、五分袖のぶかぶかシャツを落ち着きなく捏ねる。
「オメガヘイトの人間とは金輪際関わらないことにする」
比良の急な宣言に柚木はぎょっとした。
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