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「マストくん……おれが階段から落っこちたこと、根に持ってる……?」
階段から転落したあの日以来、半月近く接触していなかった<マストくん>に柚木は語りかけた。
「おれって、とろくて、運動神経悪くて……体育の授業でも平均台からすぐ落っこちるし……あのとき、階段でバランスとれなかった……マストくんはそんなつもりじゃなかったのに……びっくりさせて、ごめん……でもさ、谷くんへのアレはないよ……? またあんなことしたら、ビンタどころじゃない、今度はおれがマストくんを階段から突き落とす……だって谷くんは……おれの大事な……」
(友達だから)
最後まで言い切る前に柚木は再び口を塞がれた。
「ん……むっ」
またギシリと軋んだベッド。
柚木はタオルの下で大人しく目を瞑る。
温もる口内へ舌先がおもむろに滑り込んでくると、先程と同じく抵抗を放棄し、従順に隅々まで明け渡した。
「っ……ふ……」
唇同士が惜しみなく密着して深く口づけられる。
先程まで消極的だったのが嘘のように渇望された。
ゆっくり、たっぷり、角度を変えては物欲しげに求められ、時にやんわり吸われて、細やかにくすぐられて。
「ん……ン……っ……んっ……ん……」
荒々しくバクリ……ではなく、いつになく緩やかで愛情深い口づけに柚木は頬を紅潮させた。
丹念な舌遣いで粘膜をなぞられながら頭を撫でられると、胸が忙しげに高鳴った。
(な……なんだこれ……)
離れかけて、でもまたすぐに戻ってきて、さらに深々とキスされる。
端整な五指で冷えていた髪を何度も甲斐甲斐しく梳かれる。
(今までと違いすぎる)
これまでの<マストくん>の暴挙からは想像もつかない甘やかな振舞に柚木は溶けそうになった。
自由になった両手を彼の肩に添え、切なそうに身を捩じらせた。
「なん、か……マストくん……いつもと違う……」
束の間の息継ぎの際、上擦った声でそう言えば。
「……俺の名前、呼んで、柚木……」
何とも信じ難い返事が返ってきて柚木はピシリとかたまった。
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