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比良の衝撃発言に柚木は危うく顔を上げそうになった。
が、この状況でご尊顔を正視するのはまだ無理だと己に判断を下し、枕に突っ伏した。
「比良くん、やっぱり記憶喪失になった……? スッポンのこと買い被り過ぎ……あ、スッポンっておれのことね……実際のスッポンは滋養強壮満点、スタミナ抜群グルメ……そんなスッポン様を自称するなんて、スッポン様に失礼っちゃあ失礼なんだけどね……」
(何の話をしているんだ、おれは)
柚木は自分自身に脳内ツッコミを入れ、一方、比良は特にツッコミを入れるでもなく呟いた。
「柚木にとって大事な人は谷なんだろう」
『だって谷くんは……おれの大事な……』
最後まで聞くのが怖くて。
途中でキスで塞ぎ、柚木の台詞を喉奥に押し戻していた比良は、剥き出しの首筋に唇で触れた。
「ッ……」
「いつも柚木と触れ合っている谷が羨ましかった」
「え……」
「羨ましくて、とてつもなく嫌だった」
首筋から、肌伝いに、うなじへ。
オメガの聖域を緩々と食んだ。
「俺じゃない別のアルファが触れるのが許せなかった」
微弱な刺激に柚木はプルプルと震えた。
限界は当に超えている。
「俺の好きなオメガの味がする」
うなじへの献身的な口づけに、すぐそこにある比良の極上の温もりに、歯止めとなる抑制力が解れていきそうになる。
「両親が多忙でマストのことを相談できなかった、柚木にはそう伝えていたけれど、それだけじゃない。マストがきっかけで柚木と繋がりが持てるようになって嬉しかった。学校に行くのが今までで一番楽しかった」
日常生活でマストになるかもしれないリスクを背負って、どうして学校に来るのか、楽しく思えるのか。
常々疑問を感じていた柚木は枕目掛けて問いかけた。
「楽しかったって、勉強とか、みんなに会えるからとかじゃなかったんだ!?」
「違う」
比良は即答する。
「俺は柚木に会えれば、それだけでよかった」
自宅の住所も、家族構成も、ペットまで、学年全員分の情報が記憶されているわけじゃあなかった。
たった一人のデータだけが比良の頭の中に鍵つきで厳重に手厚く保存されていたのだ。
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