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「柚木に返さないとな」  真っ直ぐな告白の破壊力に胸がぶっ壊れそうになっていた柚木は、枕の生地寸前でパチパチ瞬きする。 比良は制服ズボンのポケットからソレを取り出した。 今日の昼休み、柚木への並々ならない執着、彼に対する暴言への怒りを抑え込み、距離をおかなければと無関心を装っていた間、密かにずっと触れていた。 上体を起こし、離れ難かった温もりからやや間隔をあけると、枕に抱きつく柚木のすぐそばに置いた。 「俺のことを守ってくれてありがとう、柚木」 柚木は、やっと、枕から顔を上げた。 「柚木はへっぽこオメガなんかじゃない。マストになった俺を何回も助けてくれた」 すぐそばにあった一つのボタンを手にとり、ふやけていた双眸を真ん丸に見張らせた。 「三つ目のボタン」 「ああ。一つだけ返さずに手元に置いていたんだ。勝手なことをしてごめん」 「ううん、そんな……」 柚木は元々自分のものだった、遠足後に学校で行方不明になっていた何の変哲もないボタンを両手でぎゅっと握り締めた。 報われるとはこのことか。 水族館へ出かけた遠足の日から今日まで、マストになった比良のために全力を尽くしてきた柚木は、捧げられた感謝の言葉に涙腺を揺さぶられた。 込み上げてくる涙を一生懸命堪えようとした。 「う……ぶひっ……」 子豚みたいに鼻まで鳴らして嗚咽し、もぞもぞ起き上がり、ベッドの上で比良と向かい合う。 「うっ、うっ……ぷひ……」 また子豚みたいに鼻を鳴らしていたら頭を撫でられた。 ボサボサになっていた髪を真心のこもった指遣いで整えられる。 呑気に眠たくなってきた柚木は、今はウトウトしている場合じゃないと身も心も引き締め、真正面にいる比良と思い切って視線を重ねた。 (あ、やっぱりむり、尊い~~……!!)

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