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長年染みついた草葉の陰精神が邪魔をし、恐れ多くて顔を伏せそうになる。 しかしギリギリと歯を食い縛り、死に物狂いで比良を見つめ返した。 「……柚木、怒ってるんだな、確かにボタンを返さなかったのは悪いと思ってる」 (やばい、睨んでるって勘違いされた!!) 柚木は自分の両頬を両手でむにっと抓った。 「嫌いになんかなるわけない!!」 少しでも表情筋がマシになるよう、にらめっこするみたいにほっぺたを左右に引っ張り、先刻の質問にやっとこさ答えた。 「嫌いになんかならないよ……おれ、比良くんのこと、ずっと憧れてた……」 これまで、とてもじゃないが恥ずかしくて言えなかった胸の内を比良に明かした。 「でも、比良くんとおれは月とスッポンで、住む世界が違ってて、目が合うのも恐れ多くて……その、大変恐縮でして……五秒以上も合わせたら、おれの心臓もたないっていうか……」 ブレまくる視線の先で比良は緩やかに笑った。 「俺と柚木はクラスメートだ。同じ世界に住んでいて、同じ学校に通って、同じ教室で授業を受けてる」 「それはそーなんだけど……」 「それにもう五秒以上目が合ってる」 そう言って、手を伸ばし、柚木の左胸に掌を翳してみせる。 「柚木の心臓、今、止まってるのか?」 柚木は。 彼の掌が本当に心臓に触れた気がした。 黒曜石の瞳に吸い込まれそうになった。 「谷くんは大事な友達だよ」 自分の口が暴走し、胸奥に閉じ込められていた言葉を吐き出すのを、ぼんやり耳にしていた。 「入学式の日、比良くんに教室で頭撫でられて、優しくてかっこいい人だなって……それからずっと憧れてたよ」

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