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「本当に?」 「ほんとに……春夏秋冬、いつだって……」 「こんなことになって、もう憧れなんてなくなったんじゃないのか?」 「ううん……ぜんぜん……ちっとも……」 (比良くんって催眠術師になったのかな) 言えなかった言葉が次から次に出てくる。 比良くんの綺麗な目に誘い出される……。 「嬉しい」 比良は柚木を抱きしめた。 「ふわぁ」 極上の温もりに包み込まれ、腕の中で素直に感嘆した柚木に心からの笑顔を浮かべる。 「俺も入学式のときから」 「ほぇ……」 「ううん、俺の方が柚木よりも先にーー……」 「ほぇ……?」 「……」 「比良くん……? 何がおれより先なの……?」 「………………」 ミシミシ……ッ 「ッ……いだだだだ!? あばら痛い! 背中折れる!」 ひたすら優しかったハグに締め技並みの力がいきなり込められて柚木は目を白黒させた。 「ッ……マストくんだろっ、このやろっ、こんなん窒息する~~……!!」 悲鳴を上げる柚木に、赤い目をした<マストくん>は一切構わず、狂的な抱擁を続けながら口を開いた。 「ごめん、柚木」 手加減なしの両腕の中で柚木は思い出す。 『ごめん、柚木』 (階段から落ちたとき、おれを呼んだのは、謝ってきたのは……マストくんだったのか) ひょいっと膝上に抱き上げられ、改めてぎゅうぎゅう抱擁された。 息苦しい。 でも嫌じゃない。 眠りについてしまった<比良くん>を恋しく思う傍ら、今、自分を掻き抱く<マストくん>に耳たぶの隅々まで発熱させた。 「ごめん」 執拗に髪を(まさぐ)られながら耳元で低く滲む声を奏でられて、柚木は、その懐に頬擦りした。 「……許しません」 「ずっと会いたかった」 「……許しません」 甘えながら許さないと繰り返す。 「おれの友達に、またあんなひどいことしたら、今度はおれがマストくんを階段から突き落とす」 狂おしい檻の中に自分を捕らえた<マストくん>へ物騒な台詞を突きつけた後、呟いた。 「そんで……おれも一緒に落ちる」

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