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弄っていた髪に鼻先を沈めて彼は即座に聞き返す。
「柚木、俺と心中してくれるのか」
そのままベッドに柚木を押し倒した。
シャツが捲れて露出したお腹を両手で撫で上げる。
「ずっと会いたかった、お前を感じたかった」
柚木は瞬く間に鮮烈な欲望に彩られた彼を見上げた。
触れられている場所から皮膚の内側に甘い毒が侵入して、爪先まで回り、体中を侵されていくような感覚に下肢の中心がひどく疼いた。
<マストくん>の過激な愛撫を自らも求めそうになった……。
ぐ〜〜〜〜
求める前に派手にお腹が鳴った。
思わず彼は動きを止め、柚木は頬をより一層赤らめる。
「お前の腹で何か鳴いた」
「おっ……お腹へってんの! おやつも何も食べてないんだよ!」
ぐ〜〜〜〜〜〜〜!!
「また鳴いた」
<マストくん>は堪えきれないといった風に声を立てて笑った。
お腹をぐーぐー鳴らしながら柚木は頭上で笑う彼に奪われた……。
「そんなに見られてると食べづらいんですけど」
ダイニングテーブルについて夕食をとっていた柚木は、隣からこちらをガン見してくる彼に苦言を呈した。
膝の上に大豆を乗せた彼は綺麗さっぱり苦言を無視し、過度な視線を寄越してくる。
(今、どっちなんだろう?)
まだ目は赤いけど、大豆がリラックスしてるし、でもこの雰囲気はやっぱり<マストくん>の方なのか……。
「喰わせて、柚木」
そう言うや否や、彼は柚木が一口目に至ろうとしていた天むすを横からバクリと失敬した。
「あ~~!」
自分の手元には僅かな一口分だけが残り、なおかつエビ天は<マストくん>の口の中に消え失せ、柚木は愕然とした。
「おれのエビ天が~~……!」
いざというとき、心中も厭わない心意気で<マストくん>を制御するつもりのようだが、果たして<へっぽこオメガ>に遂行できるのか、否か。
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