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「当面、比良には自宅でオンライン授業を受けてもらうことになった」
教室中に広がったざわめき。
「テストの際は極力土日に登校してもらうようにし、個別で受けてもらう。それから、これは苦渋の選択になったが、ご家族や本人とも話し合い、行事への参加は厳しいとーー」
「全ての学校行事への不参加が決まったということですか?」
アルファの女王サマこと阿弥坂の食い気味な質問に担任は頷いた。
ざわついていた教室は遣りきれない悲壮感に包まれる。
皆、テレビだったりネットだったり、メディアを介して間接的に知っていたマスト。
同じ学校の同級生が引き起こし、それまで無関係だった日常生活上に突如として出現して誰もが驚いた。
しかもマストになったのは教室のリーダー的存在。
学内で最も慕われる完璧なクラスメートであっただけに、学校生活からの隔離を余儀なくされ、深いショックを隠し切れずにいた。
(修学旅行にも一緒に行けないの、つらい、寂しい、でも……)
<マストくん>の凶暴性を直接的に知る柚木は、<比良くん>が我知らず周りの誰かを傷つける恐れが少しでも軽減される選択を受け入れた。
凶暴性の餌食になりかけた当の本人である谷は、机に頬杖を突き、明後日の方向を眺めていた。
「納得できません」
立ち上がった阿弥坂がピシャリと言い放つ。
「予期せぬタイミングでマストになり、暴力性が跳ね上がって誰かを襲うリスクがある、それなら私達アルファが全力で制御してみせます」
他のアルファ性の生徒もこぞって頷き、クラスの過半数を占めるベータ性の生徒は顔を見合わせた。
「怪我人でも出したらマスコミに取り沙汰される、だから学校は消極的なのでしょうが、私達アルファは比良クンが学校生活を何不自由なく送れるよう、支えてみせます」
やたら「アルファ」を強調する阿弥坂に少人数のオメガ性の生徒はげんなりした。
決定した方針は変わらないと担任が言い切る前に。
「これは俺自身が決めたことなんだ」
それまでずっと沈黙していた比良が口を開いた。
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