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「期末テストの実施日まで、しばらく学校へは来ない」
比良が自分の元から離れ、柚木はやっと肩の力を抜いた。
教卓の横にすっと立った憧れのクラスメートへ、熱を孕んだ聖域に辟易しつつ視線を投げかけた。
「ただ、週末の試験日に登校できる確証もない。検査が済んで今は大学病院に定期的に通院して、自宅安静を努めているけれど、それがいつ終わるか、もしくは長期入院に切り替わるかもわからない。でも、いつだって……また会える日を楽しみにしているから……」
ふと途切れた言葉。
鬱々とした雨天でも清涼感を提供する凛々しい顔に季節外れの紅葉が散った。
「だから心の片隅で再会を一緒に願ってもらえると嬉しい」
性別・階層問わず数多の生徒が比良に見惚れた。
目に見えない矢が数人の心臓 にブスリと的中した。
離れても惜しみなく比良に見つめられて、柚木は、真っ赤っ赤になった頬を両手で覆い隠そうとする。
が、いつぞやの比良に「ラッコの真似」と優しくからかわれたことを思い出し、行き場に迷った両手をジタバタさせ、教室の不審者みたいになった……。
今日、比良はこの報告のためだけに学校へやってきた。
櫻哉は書類上の手続きや説明を聞くために職員室に出向いており、授業は受けずに母親の運転する車で帰る予定だった。
一限目開始のチャイムが鳴って授業担当の教師がやってくる。
次の再会がいつになるかわからない教え子達を思い、担任らの計らいによって五分ほどお別れの時間が特別に設けられた。
「クラスメートに保健委員なんて名前の生徒はいない」
心温まるひと時を想像していた担任らは予想外の展開にぎょっとした。
「古い悪習にも等しい階層至上主義に依存して、差別的な言動で相手を貶めようとする思想を俺は拒絶する」
自分の元へ我先に集まろうとしていたアルファ性クラスメートへ、比良はいつになく厳しい眼差しと言葉を突きつけた。
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