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比良限定のオンライン授業は問題もなく無事に初日を終えた。
「体育のときもパソコン持っていこうよ」
「それで比良クンは部屋で一人で運動するの? なんかシュールだな」
[運動不足の解消によさそうだ]
帰りのホームルーム、複数の生徒達が教卓上のパソコンを覗き込んで比良と会話している。
一昨日、柚木にイチャモンをつけたアルファ性の男子らは歯痒そうにし、阿弥坂は聞こえてくる音声に聞き惚れていた。
(おれも眼鏡かけた比良くん見たい)
しかし何だか気恥ずかしさが勝り、柚木は本日まだ一度もディスプレイ上の比良を目にしていなかった。
「そういえば、比良クン、アプリのアイコンにボタンの写真設定してたよね?」
(おふっっっ)
「あれって大事なボタン? 何か意味があるの?」
積極的に問いかけてきたアルファ性の女子に対し、比良は端的に答える。
[秘密だ]
柚木は……たったそれだけの回答に心臓 をがっちり鷲掴みにされた。
「二人だけの秘密」が舞い戻ってきたことに、またしても中毒性の高い昂揚感が溢れるに溢れて胸を満たしていく。
(そもそも土曜に会うのだって、みんなにはナイショだ)
今すぐ教卓へ駆けつけたい、顔を見たい、比良とおしゃべりしたい。
奥手な柚木は携帯を取り出した。
オンライン再会の代わりに、メールを送るでもなく、アプリのアカウント越しに彼の存在を地味にしみじみ感じようとした。
(あ)
マナーモードにしていた携帯がアプリを開く前に一件のメールを受信した。
(えーと、比良柊一朗さんから、か)
え。
え?
え!?
三段階で驚いた柚木、生徒が集まる教卓と自分の携帯を交互に見比べた、妙に焦ってしまって関係ないアプリをタップして無駄にたくさん立ち上げた。
[画面越しだと教室や先生が普段と違って見えて不思議な感じがする]
比良はクラスメートと話している。
柚木は首を傾げつつ、比良からの初メールをおっかなびっくり拝見してみた。
ーー柚木、今日は学校を休んでるのか?
ーー今日一度も姿を見てない
ーー声も聞こえない
ーーさみしい
四行の簡潔なメッセージ。
ラストの一行はクリティカルヒットとなり、ものの見事に柚木をノックアウトへ導いた……。
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