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『どうもこんにちは、柚木君』 待ち合わせ場所で今にも卒倒しそうになっていた柚木の前に横付けにされた外国車。 愛着の湧く丸みを帯びた独特なフォルム、梅雨の最中の鮮烈な日差しに艶めくブラックのボディ、運転席のパワーウィンドウが開かれて顔を覗かせたのは、銀縁眼鏡が恐ろしく似合う、ミステリアスな男……。 (あれはやっぱりどう考えてもシリアスなドラマに出てくる頭のいい犯人そのものでした) 映画のワンシーンじみていた櫻哉との再会を思い出し、柚木はまたしても失礼なことをこっそり思う。 「柚木君には色々とお世話になりっぱなしで、本当、頭が上がりません」 テーブルについた三人。 向かい側に座った櫻哉の言葉に柚木がただただ恐縮していたら、隣に座る比良が口を開いた。 「柚木は身長164センチ、十月生まれのてんびん座でO型、帰宅部なんです」 (突然、どうしておれのプロフィール公開に至りましたか、比良くん) 「それにエビの真似が得意です」 「はいっ!?」 「とてもかわいい」 「え! えっ? えっ!? おれ、いつエビのモノマネなんかしたっけ!?」 比良はにこやかに笑う。 止め処ない想いを打ち明けたとき、枕にしがみついて丸まっていた姿を記憶の倉庫に厳重に閉じ込めている彼は答えず。 誰もが屈するであろう無敵の笑顔に柚木はぐっと詰まった。 「でもっ、あの……すみません、忙しいのに、おれなんかと一緒にお昼ごはん食べてもらって」 ゆったりした立襟のスタンドカラーシャツにデニム、やはりどちらも黒、カジュアルな服装の櫻哉は低姿勢の柚木に答える。 「今は溜まるに溜まっていた有休を消化しているところです。柚木君が気兼ねする必要はありませんから」 「そ、そうですか」 「在宅でもチームスタッフに指示を送ることはできますし、自宅から大学が近いので、時々顔を出しています」 (比良くんのお母さんは<サルベーション>をつくった人、つまり……うん、とてもすごい人) 「ただ来月にーー……」 ふと途中で台詞を区切り、櫻哉はメニューをぎゅっしている柚木に尋ねた。 「柚木君、何にするか決まりましたか?」 「柚木は海老天御膳でお願いします」 本人に代わって比良が回答した。 櫻哉は少し驚いたような顔をし、柚木はメニューをあたふた確認する。 「えーと、でも、それってなかなかお高い」 「柚木は海老天が大好きだろう?」 家族構成どころか、大学生の姉が所属する学部まで把握している比良、愛しのオメガの好物など当たり前のように知っているのだった。

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