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それはもう色々な意味で恥ずかしいの何の、母親同伴の初デートで意気消沈しかけた柚木であったが。 「うわぁ! このエビ天すごい! 衣がサクサクしてる! 身がぷりぷりしてる!」  運ばれてきたエビ天の美味しさに感動してリポーターばりにリポートした。 「茶碗蒸しも! お刺身も! おいしい!」 先程までどんよりしていたはずの柚木が元気いっぱいパクパクモグモグご飯を頬張れば。 隣の比良は心底微笑ましそうに頬を緩めた。 「あ、比良くんも食べるっ?」 (……あ、待てよ、自分の分あげるとか、お行儀悪かったかな) サクサクぷりぷりエビ天の感動を共有したいがため、まだ手を付けていなかったエビ天を比良の御膳に運ぼうとした柚木は、はたと一時停止になる。 (そもそも、おれが使ったお箸で比良くんにエビ天差し上げるとか、完全アウト案件……!!) 慌てた柚木が手を引っ込めるよりも先に。 比良は空中で所在なさそうにしていたエビ天にかぶりついた。 (ウ……ヒ……ィ……!!) 不本意ながらも憧れのクラスメートに対して「あーん」してしまった柚木は、衝撃の余り、全身茹で上がりそうになる。 一口で半分ほどエビ天を頂いた比良は、油分で滑らかになった唇を紙ナプキンでさっと拭った。 「本当だ、おいしい、ごちそうさま」 「柊一朗。柚木君がびっくりしてますよ」 母親の櫻哉に軽く諌められた比良はほうじ茶を一口飲み、自分の粗相を丁寧に謝罪した。 「すみません、あまりにも美味しそうだったので、つい食べてしまいました」 柚木は……大いに迷う、比良の食べかけたエビ天を彼に最後まで食べてもらうか、自分が食べるか……究極の選択を前にして密かに葛藤するのであった……。

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