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「お母さん、お茶のおかわりはよかったですか」 「大丈夫です。食後にデザートはいりませんか?」 「どうする、柚木?」 「あっ、いえっ、結構です! ありがとうございます!」 (比良くんとお母さん、敬語で話し合うんだな) 同級生なのにどうして敬語なんだって前に言われたことあるけど、親子で使ってる方が違和感あると思う、うん。 「ごちそうさまでした!」 なるべく意識しないようにして比良の食べかけエビ天も頂戴し、海老天御膳を平らげた柚木は合掌した。 「全部おいしかったです!」 「それはよかったです」 すでに食事を終えて中庭を眺めていた櫻哉は柚木に向き直り、微笑んだ。 スレンダーな体型で屈強というイメージからは程遠いオメガの母親。 知的でミステリアスで、癖になりそうな魅力の持ち主ではある。 (お母さんに果たしてマストくんを止められるんだろーか) まさか鎮静剤とか注射でブスッとやったり……? 「あの、ちょっと聞いてもいいですか?」 柚木は態度を改めて櫻哉に尋ねてみた。 「、これからの参考にと思って、その、比良くんがマストく……マストになったとき、どんな風に接していたんですか?」 チラリと隣を窺えば比良は静々とお茶を飲んでいた。 デリケートな話で気に障らなかったかと、彼の反応を気にしている柚木に櫻哉は回答する。 「基本、放置していました」 「えっ」 「はしましたが」 (一工夫……?) 「そうなんですか、その、マストくんが暴れ出さないよう鎮静剤をブスッとか……」 最初は親近感ある<マストくん>呼びに注意していた柚木だが、すぐにころっと忘れてそう呼号し、櫻哉に怖々と問いかけた。 「朝昼夜の食後に安定剤をゴックン……とか」 「マストは病気ではないので薬はなるべく服用させていません」 櫻哉はまた中庭に目を向けた。 均整を保って見栄えよく剪定された草木、瑞々しい空間が横長の長方形に切り取られ、まるで写真や水彩画を彷彿とさせるガラス窓を見つめた。 「階層を問わず、アルファとオメガがよりよい日々を送られるよう、私達は<サルベーション>をつくり上げました。生活に付き纏う制限から解放されるように。人生における選択肢が増え、一日一日が豊かに潤うように」 シャープな(おとがい)が際立つ横顔。 息子にはない中性的な色香が漂う。 「唯一、サルベーションでは抑えられない発情期(マスト)を我が子の柊一朗が引き起こした。何かしら運命的というか……本能を捻じ曲げた私達に与えられた(カルマ)というか……」 シーーーーーン…… (……迂闊に聞いていい話じゃなかった……)

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