112 / 333
15-6
中庭を眺め続ける櫻哉に柚木は冷や汗をかく。
比良はまだ伏し目がちにお茶を飲んでおり、へっぽこオメガは静寂に居た堪れなくなって何か新しい話題を提供しようとしたものの、てんぱって思い浮かばず。
どうしようかと内心焦っていたところへ救いの着信音が。
「ああ……」
バッグから携帯を取り出した櫻哉は、自分が籍を置く講座からの連絡だとわかると、柚木に断りを入れて電話に出た。
「すみません、ちょっと失礼しますね」
個室から廊下へ出ていった彼に柚木は肩で息をついた。
自分も比良に倣い、香ばしさが引き立つほうじ茶を飲み、ゴツゴツした手触りの湯呑みを慎重にテーブルに下ろす。
「おれ、やっちゃった、失礼なこと言っちゃった」
周りの個室から聞こえてくる客のさざめき。
電話に対応している櫻哉の声は聞こえてこない。
(戻ってきたらちゃんと謝ろう)
それにしても。
今日、お母さんが来てくれてよかったーーー……!!
(最初はびっくりした、緊張した、だけどもしも比良くんと二人きりだったら今頃おれの心臓止まってる)
隣でまだお茶を飲んでいる比良を柚木は横目で窺った。
(比良くんは今までどんなデートをしてきたんだろう)
女子高のお嬢様、年上の綺麗系、噂は出回ったが本人には否定されてきたゴシップ。
どんな相手とお付き合いしてきたのかは謎のベールに包まれている。
(キ……キスとか……い、い、いっぱいしたのかな……?)
タオルで目隠しされたときにお見舞いされたキスの感触が蘇り、柚木は、必要以上に唇をキュッときつく結んだ。
(そりゃあ、したでしょ……なんか、多分、上手だったし……)
雨降りの放課後、自宅の自室、ベッドの上。
最初はすぐに離れていったが。
再開されたときは実に細やかで繊細で。
隅々にまで愛情が行き届いた、それはそれは甘い口づけだった。
ともだちにシェアしよう!