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「……」 保護者同伴のデートで何を思い出しているのかと、柚木は自分自身を叱咤した。 温くなったお茶をゴクリと飲み干し、まだ湯呑みを手にして静々やっている伏し目がちな比良にぎこちなく笑いかける。 「お母さん、遅いね、やっぱり忙しそ、う……」 (あれ?) 比良くん、目が赤くなってーー……。 「あいつ嫌いだ」 ぴたりと笑うのをやめた柚木に、比良は、いや、赤い目をした<マストくん>は言う。 それまで両手で丁重に持っていた湯呑みをテーブルに叩きつけるようにして下ろす。 呆然としている柚木に彼もまたニヤリと笑いかけた。 「い……一体、いつ?」 肩を抱かれて有無を言わさず引き寄せられた。 「いつからマストくんだった!?」 「いつからだと思う?」 それまで半開きの伏し目がちだった双眸が全開になって柚木を間近に覗き込む。 「の真似、うまかったか?」 (真似って……) 今度はマストくんが比良くんのフリしてたってこと!? 「ひぃぃッ……ちょ、ちょっと、こらこら……!」 掘りごたつからズルリと引っ張り上げられ、板間に転がされた柚木は、当たり前のように真上にやってきた彼に慌てふためいた。 「お母さん戻ってくるだろ!」 (あの人、おばさんとは言いづらいんだよな~) 「嫌いだ、あいつ、閉じ込め魔だ」 「は? 閉じ込め魔? なにそれ……」 (エビ天をあげたときは比良くんだった) 柚木はつい先刻まで静々と湯呑みを傾けていた彼をまじまじと見上げた。 落ち着いた物腰が基本である<比良くん>からガラリと変わった顔つき、マスト特有の頭痛に片眉を引き攣らせながらも、ひどく愉快そうにしている彼へ手を伸ばそうとした。 「あ」 柚木の掌が到着するよりも先に<マストくん>は自ら頬を押しつけてきた。 恥ずかしげもなくネコ科の動物みたいに激しい頬擦りを。 「いい匂い」 「へ……?」 「俺の好きな匂い」

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