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『俺の好きなオメガの味がする』 顔つきも振舞も違うのに<比良くん>の言葉と重なり、柚木は胸の奥をぎゅうぎゅう絞られているような何とも言えない心地になった。 (エビ天にかぶりついてきたとき、確かに<比良くん>だった、だけど) ちょっとだけ<マストくん>ぽかったんだよな……。 「俺だって<待て>くらいできる」 親指の付け根辺りをガブガブしてきた彼に柚木は身を捩じらせて注意する。 「くすぐったい、噛むなってば」 「あいつにバレないよう<待て>してやった」 「大豆より噛み癖ひどいぞ、マストくん」 「柚木、俺の噛み痕だらけにされたいか?」 「全然されたくない」 幸か不幸か、櫻哉はなかなか戻らず、最早対策機能が失われた個室で<マストくん>は柚木の指をべろりと舐め上げた。 「だめだってば、こんなところじゃむりだよ、できないよ、もうすぐお母さんも戻ってくる、早く比良くんに戻って……おわっ!?」 板間に転がされたかと思えば、お次は両脇に両手を差し込まれるなり瞬時に抱き起こされ、起立を強制された。 目まぐるしい体勢の移行にクラクラしていたら。 「俺とデートしろ、柚木」 まさかの<マストくん>からのデートのお誘いに柚木はこれでもかと瞠目する。 「も……もうしてるじゃん、現在進行形中じゃん。それに忙しいお母さんに、これ以上付き合わせるわけにはーー」 「あいつは置いてく」 「えぇぇぇえ」 (今回はデートしたら比良くんに戻ってくれるんだろうか) それこそ無茶だ、リスクがありすぎる、学校の誰かに見られでもしたらなんて言われるか! 比良くんのお母さんだって心配する。 みんなに迷惑がかかる。 何が起こるかわかったもんじゃない。 「行くぞ」 頭の中では危険信号が忙しげに点滅していた。 それなのに。 柚木は差し伸べられた<マストくん>の手をとった。 ただ無性に彼とデートしてみたくなった。

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