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16-1-マストくんとデート?
週末、久し振りの晴天、連日の雨で洗われた街はいつにもまして人出があった。
「マストくん、足早いっ、おれ転んじゃう!」
がっしり肩を組まれ、他の通行人にぶつかる勢いでガツガツ歩いていた彼に柚木は必死の形相で訴える。
「歩幅考えて! 足の長さ考慮して! 雲泥の差だから!」
今にも引き摺られそうになって、縺れる足取りで危なっかしげに歩行しているオメガ男子に別格のアルファは意地悪く笑う。
「抱っこしてやろうか」
「ノー抱っこ!! 抱っこ結構です!!」
櫻哉に黙って和食料理屋から出てきた二人。
個室から覗いてみれば板張りの廊下に彼の姿はなく、マナーを守って人気のない隅っこで話しているのかもしれないと、後ろめたくも柚木は<マストくん>と共にその場を後にした。
(後で謝って謝って謝ろう)
白昼の日差しが満遍なく照りつける交差点。
柚木は自分の肩を抱く彼を薄目がちに見上げる。
日の光の下で初めて見る<マストくん>。
不敵な眼差しで射るように前を見据え、ただならない気迫に通行人は自然と左右へ分かれていく。
(今、とんでもないことしてる)
柚木は誰よりも彼の凶暴性を知っている。
だからこそ、学校側と相談して比良が選んだ学校行事不参加というシビアな答えを受け入れた。
(それなのに……矛盾もいいとこだ)
今、おれは<マストくん>と街中でデートしてる。
<比良くん>を取り戻すため……もあるけど、それだけじゃない。
罪悪感を上回る罪深い昂揚感にすっかり取り込まれてしまった柚木は、比良もこんな心境だったのかと、彼が抱いていたという葛藤に思いを馳せた。
『離れるべきだと自分に言い聞かせて、距離をおこうとした』
『母にも止められた、でも我慢できなくてこの家までやってきた』
(こういうの、衝動っていうのかなーー)
「おい」
柚木はぶったまげた。
交差点のど真ん中で矢庭に立ち止まった彼に体の向きをぐるりと変えられる。
正面から腰を抱き寄せられ、瞳孔を射貫く勢いで赤い眼に見つめられた。
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