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「これでいいか」
「え! いやいや、それだと余計目立つから!」
「じゃあ、お前が選べ」
「えーと、じゃあ、これ」
「落としたヤツじゃないのか、それ」
ハートのサングラスを外した彼はまた無造作にスタンドへ戻し、またバラバラ落とした他の眼鏡は放置して、そして。
「えっ」
真正面に顔を突き出されて柚木は大いにまごついた。
「かけろ」
目を閉じた<マストくん>に命令されてゴクリと生唾を呑む。
とりあえず落ちていた眼鏡をあたふた拾っていたら「早くしろ」と急かされ、あたふたスタンドに戻し、シンプルなブラックフレームの眼鏡を両手に持ち直した。
(あ……あれ……?)
目、閉じてたら普通に比良くんじゃん。
片方の眉はちょっと吊り上がってるけど、ちょっと不機嫌そうな比良くんじゃん、これ。
「おい」
「あっ、ごめんごめん……じゃあ、いきまーす……」
気を取り直し、柚木は目を瞑る<マストくん>にそろりそろり眼鏡をかけた。
「……これ、だめだ」
(普通っぽいシンプルな眼鏡だと、かっこよすぎて普通に目立つ!!)
ハート型もシンプルな眼鏡も様になる彼は柚木をジロリと見下ろす。
「わ!?」
荒っぽく外した眼鏡を今度は柚木にかけさせた。
「あ、あぶな! 目に刺さるとこだった!」
「柚木、ちっとも似合わない」
「ッ……うるさいうるさい!」
外そうとすれば上からまた別の眼鏡を二重にカチャカチャかけさせられ、柚木はプンスカしかけた。
「いちゃついてんなー」
まだ背後にいた女子大生の声が聞こえてくると、瞬く間に赤面し、そして心から実感したのだ。
(今、ほんとにマストくんとデートしてるんだ)
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