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「ありがとうございましたー」
買い物を終えて通りに出てきた二人。
「あのコ、制服にサングラスかけてる?」
「しかも赤って。攻めてるなー」
「なんかクセになる、ついつい見ちゃう、もしかしてモデル?」
(しまった)
結局、どの眼鏡も卒がなく似合って目立ってしまうので、赤い目を誤魔化すのに最適なレッドのサングラスをチョイスした柚木。
楕円形の縁なしで自分用には一生購入しないだろうアイテム。
とどのつまり、最も派手で目立つものを彼にかけさせたわけだ。
(完っ全に血迷った)
同年代の人間にビシバシ注目されている<マストくん>、その隣で縮こまった柚木は彼に問う。
「で、これからどーするの、マストくん」
ひしめき合うビル。
青空を反射する無数の窓。
常に緑を纏う街路樹。
いつにもましてコントラストの際立つ、光り輝く梅雨晴れの街を背景にして、腕捲りしたブルーの長袖シャツ、チェック柄のズボンという制服に赤いサングラスをかけた彼は答える。
「お前とデートする」
柚木は……照れた。
意味もなくトートバッグを肩にかけ直す。
「……それはわかったから、どこ行くのさ? マストくんがカラオケとか映画とか行くわけないよね」
「狭いところは嫌だ」
「はぁ」
「もう閉じ込められたくない」
「……さっき、お母さんのこと閉じ込め魔って言ってたけど、それって、っ、ちょちょちょ、ワンコ踏まないで! ワンコ来るから!」
向かい側から来ていた御婦人が飼い犬を連れており、アスファルトをせっせと歩いていた小型犬が<マストくん>の足元スレスレを擦り抜けようとしたので、柚木は慌てて注意した。
「ぺちゃんこにしてやる」
まぁ彼なりの冗談ではあったのだが。
とてもじゃないが冗談に聞こえず、柚木は<マストくん>の片腕にぎゅうぎゅうしがみついて自分の方へ引っ張った。
せっせと真横を擦り抜けていった小型犬。
一安心した柚木が離れようとしたら。
彼は離れかけた体を力強く抱き寄せ、密着を続行するよう無言で強請った。
「……暑くないの、マストくん」
「暑くない。これがいい」
湿度も気温も高い。
今日は朝から蒸し暑い。
それなのに服越しに感じる彼の体温は心地よく、ガツガツしていた足取りも今は幾分落ち着いていて、柚木は胸の内側までじんわり熱くさせた。
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