120 / 333

16-6

真っ当な平凡人生を送ってきた柚木は人に注目されることに至って不慣れであり、恥ずかしく、逃げ出したく、焦りまくった。 (こんなところ学校の誰かに見られでもしたら……) 「あれ? 比良クンじゃ?」 柚木はここぞとばかりに顔面蒼白になった。 「やっぱりそーだ、でも制服じゃなかったら気づかなかったかも」 「比良クンって。剣道の覇者っていう、あの比良クン?」 おっかなびっくり視線を向けた先には、高校生らしからぬ派手なファッションに身を包んだ男女の二人組がいた。 「剣道じゃないって。弓道だってば」 「あー、浴衣かなんか着て的とか討つやつかー」 「袴だってば」 (なんか、ふわっふわな人達だ) 声をかけてきた相手は柚木達が通う高校の卒業生だった。 比良の直接的な知り合いというわけではなく、学校のトップに立つアルファとして有名だった下級生の彼をゴシップ越しに知る程度の極薄な関係性であった。 「オレ、さっき見かけたよ、このコたち。交差点でめちゃくちゃいちゃついてた」 ハイブランドに身を固めた彼氏、ホイップクリーム満載の激甘ドリンクを持った彼女、どちらもアルファだ。 「えー。なんか意外だなー。比良クンってばイメチェンしたのかなー」 「ドラマみたいでロケしてるのかと思ったし、ガチで」 「えー。見たかったなー。再現してほしー」 (もしかして、いわゆるパリピ? これがパリピ!?) 未知なるキャラとの遭遇に閉口していた柚木は、もう去っていいだろうかと、会話中の二人から離れる素振りを見せた。 「あ、待って、比良クン、連絡先教えてよ」 (これがパリピ……!!) 彼女の方はともかく、れっきとした初対面であるパリピ(?)男子のあっけらかんとした積極性に柚木は尻込みする。 「オレの知り合いにモデル事務所やってる人いるんだけど、モデルとか興味ない?」 「あ、あのー、マ……比良くんはそういうの興味ないと思います」 「もしかして君って恋人兼マネージャー? もしかして比良クンどこかに所属済み? そりゃそーだよね、めちゃくちゃ男前だもんね、周りとオーラ違うもんね」 「あわわわ……」 自分にまでグイグイやってきたパリピ男子に押されていたら。 それまで黙っていた<マストくん>がぬっと割り込んできた。

ともだちにシェアしよう!