121 / 333

16-7

「マっ……」 柚木は肝を冷やす。 マスト中に跳ね上がる暴力性の的にならないよう、広い背中から飛び出し、自分が彼の前へ回り込んで両腕を広げた。 「比良くんは今ちょっと具合が悪いので、先を急ぐので、ではこれで……!!」 早口にそう告げて<マストくん>を引っ張り、急ぎ足で先へ進もうとした。 「待って待って、じゃあオレの連絡先教えるから」 (特に必要ないんですけどーーー!!) パリピ男子は柚木の片腕を掴んで引き留めた。 それを見てさらに顕著に引き攣った<マストくん>の片眉。 始終テンション高めで馴れ馴れしい初対面のパリピ男子を見据え、拳をかため、振り上げようとーー 「何をしているの」 柚木は……不意討ちのデジャブに驚愕する。 <マストくん>の背後に突如として現れた、彼の片腕を掴んでいるアルファの女王サマこと阿弥坂を見、衝撃のエンカウントにヒュッと息を呑んだ。 (よりによって女王サマに見つかったーーー!!!!) 最も遭遇したくなかったと言っても過言ではない。 おっかないクラスメートの登場に柚木は絶句する。 「うっそ、なにこのコ、すっごい美人」 「あー。女王サマだー。このコも後輩だよー」 狼狽している柚木と反対に、パリピ男子は一人盛り上がり、彼女の方は呑気にドリンクを飲みながら教えてやっている。 阿弥坂は彼の片腕を掴んだまま二人を見やった。 馴れ馴れしい男女にご機嫌を損ねないか、暴言を吐かないか、自分がピンチに陥っているというのに他人の心配をする柚木であったが。 「▲▲が向こうで撮影してたわ」 予想外の言葉にキョトンとした。 一方、若者に人気のある話題沸騰中の芸能人がロケをしていると聞いて、パリピ男子は目を輝かせる。 阿弥坂が詳しい場所を教えてやれば「行こう、ミゥちゃん!」と彼女の手を握って駆け出した。 「お騒がせしましたー」 去り際にドリンク片手にぺこりと一礼してみせた彼女に柚木は律儀にあたふた頭を下げる。 (すごい……一瞬でパリピを撃退した……さすが女王サマ……) 「これは一体どういうことなの」 (……なーんて感心してる場合じゃなかった)

ともだちにシェアしよう!