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「とりあえずデートさせてください」 柚木は阿弥坂に深々と頭を下げた。 ずっと同じ場所にいるのも憚られ、移動した先の裏通り、夜から営業を始めるアイリッシュパブのシャッター前だった。 「マストくんのお願いを叶えたら、満足したら、比良くん戻ってくると思うんだ」 「信じられない」 阿弥坂に即座に突っぱねられて柚木は「う」と言葉を詰まらせる。 「黙って親睦会を抜け出すなんて最低ね」 「……その通りです」 「今頃ご家族が必死になって探しているでしょうね。連絡の一つくらい、もちろんしてるわよね?」 「……その、比良くんは携帯も財布もお店に置きっぱなしで、おれはお母さんの連絡先を知らなくてーー」 「最低ね」 最もだと柚木は思う。 正論だ。 ぐうの音も出ない。 「歩詩が言うデートの定義って、なに」 柚木はずっと下げていた頭をそろそろと上げた。 両腕を組んで横を向く阿弥坂は、視線を合わせずに問いかける。 「性交渉も入るの」 「そっ……れは……わ、わかんない……マストくんの気分次第……かな!?」 「しょうもないわね」 冷ややかなリアクションに柚木は物理的に胸を撃ち貫かれた気分になった。 「私も同行するわ」 そして思いも寄らない同行宣言に目をヒン剥かせた。 「ふざけるな」 真っ先に異論を示したのは柚木の真横で阿弥坂を耐えず威嚇していた<マストくん>だった。 「やっぱり歩詩一人じゃ頼りにならない」 「ついてくるな、邪魔だ、目障りだ」 「もしもマストになった比良クンが暴走したら全力で制御する。私はそう誓ったの」 「勝手に誓ってろ、目障り女」 「私も同意見よ。比良クンを穢す貴方は目障り。耳障り。発情期(マスト)がこんなにも腹立たしい存在だったなんて知らなかった。こんなもの神聖視できないわ」 「ヒステリー女」 「早く消えて」 (誰か二人分の口輪持ってきてーーーー!!!!)

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