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17-1-別格のαとαの女王サマ
かくして。
アルファの女王サマが見張り番を務めるというスリリングなデートが幕を開けた。
「喰いたい」
昼下がりの喧騒に包まれた街中。
黙々と背後を歩く阿弥坂の鋭い視線を感じながら彼と並んで歩いていた柚木は、どきっとした。
「そ、それは……」
(ひょっとして性的な意味ですか?)
「えーと、さすがに、ゴホン、ちょっと問題が、ゴホゴホ!」
「喰いたい」
わざとらしく咳払いしていた柚木は<マストくん>が指差した先を目で追い、しょっちゅうお世話になっているファストフード店を見、拍子抜けした。
「バーガー食べたいの? お昼にガッツリごはん食べたのに?」
(比良くんはお刺身御膳と金目鯛のお煮付けをぺろっと完食してた)
食べ過ぎでお腹を壊さないかと躊躇していたら、当たり前のように肩を抱かれ、店の方へズルズルと引き摺られていく。
「阿弥坂さんっ」
柚木は肩越しに後ろにつく彼女へ報告した。
「今からそこのバーガー食べにいきますっ」
「いちいち言うな、柚木、ほっとけ」
黙々と歩いていた阿弥坂は返事をするでもなく、迫力の増す仏頂面で忌々しそうに彼を見返した。
(美人な人って怒っても美人なんだな)
妙なところで感心している柚木は<マストくん>に引き摺られ、街の一角に建つファストフード店へ。
自動ドアが開かれて冷房の効いた店内へ入るなり、まず従業員の視線が大袈裟なまでに一斉に集まった。
気が付いた客も次から次に目を向け、特別なオーラを纏う彼に必然的に関心を寄せる。
今日一日だけで一生分の注目を浴びているような気がして、しかし実際注目されているのは<マストくん>だと自身に言い聞かせ、今度は柚木が彼を引っ張ってカウンターに向かった。
「で、何食べたいの」
やや緊張した面持ちのバイトくんを前にして尋ねれば、背中をひどく曲げてカウンターに両腕を乗せ、メニューを覗き込んだ彼は言う。
「全部」
「あーのーなー!!」
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