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「これ、これ、これ、これ」
「!!」
「えー、デラックスビーフバーガー、デラックスエビバーガー、ポテトのサイズは……」
「一番でかいやつ」
「!!」
「ナゲットは……」
「一番多いやつ」
「!!!!」
柚木の背中を冷たい汗が流れ落ちていく。
(圧倒的にお金が足りない)
矢継ぎ早に注文され、手ぶらである彼のズボンのポケットに財布がないことを今一度確認し、すっからかんな自分の財布にお札が入っていないことも確認して。
覚悟を決めた。
「あのーー……阿弥坂さん……」
後ろに並んでいた阿弥坂は柚木の呼びかけに「何」と相変わらずの仏頂面で口を開いた。
「お……お金を貸してください……」
クールビューティーさが引き立つアーモンドアイがギラリと殺気立つ。
竦み上がった柚木は思わず隣の<マストくん>にしがみついた。
「貴方のお財布の残高に合わせて注文させたらよかったじゃない」
「っ……なるべくお願い聞いてあげないと、満足させてあげないと、比良くんが戻ってこないんです! 多分!」
それを聞いた阿弥坂は。
柚木と彼の間にわざとらしいほど強引に割って入った。
「纏めて支払うわ」
頼もしい台詞と共にクレジットカードを……ではなく、上限ギリギリまでチャージされた交通系ICカードを提示した。
「お前が払うんならもっと頼む」
「卑しい男」
「柚木もいっぱい頼め」
「後できっちり請求させてもらうから」
「ケチ女」
緊張しているベータのバイトくんの面前で言い合いを始めたアルファの二人。
「どっちも背が高くてかっこいい」
「見るからにアルファだよね」
「迫力あるなー」
客の会話が耳に入ってきた柚木はすぐ隣で睨み合う二人を見比べた。
長いストレート髪の頭にはキャップ。
ゆったりしたミリタリーテイストのツナギはオリーブ色。
レザーのレースアップブーツ。
ボーイッシュなコーディネートには意表を突かれたものの、スタイル抜群な阿弥坂によく似合っていた。
クラスの女子において背の高いゾーンに入る171センチ、164センチの柚木より上背があるのは一目瞭然である。
182センチの彼と並ぶと確かに並々ならない迫力があった。
(……よく見たらお似合いだぁ……)
誰もが認める華のあるアルファ二人にへっぽこオメガは感服する他なかった、が。
「捕食が済んだら比良クンを返して」
「お前が消えるまで返さない」
「私は比良クンを取り戻すまで離れない」
「邪魔女」
「その邪魔女に給餌されるなんて哀れね」
「デラックスカツバーガー、追加」
「卑しい、意地汚い、厚かましい」
目の前で貶し合う二人に竦み上がるバイトくん、柚木も限界まで首を竦めた、それはまるでスッポンのように……。
(今すぐ空気になりたい……これ以上目立たないように……)
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