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(アルファの中でも比良くんに傾倒していた女王サマ) 比良くんを乗っ取った、比良くんとはまるで別物のマストくんが好き勝手しているのが許せないのかもしれない。 (比良くんはこんなことしないもんな) まだ肩に頭を乗っけて寛いでいる彼に柚木はついつい笑みを浮かべる。 「ヘラヘラしないで」 すかさず阿弥坂にピシャリと注意されると、条件反射でまたスッポンみたいに首を縮めた。 間もなくしてテーブルに運ばれてきたジャンクフードいっぱいのトレイ。 食べ切れるのだろうかと心配する柚木の隣で<マストくん>は食事を始めた。 それはそれは痛快な食べっぷりだった。 和食料理屋の個室では一つ一つの所作が洗練されていて、文句のつけどころがないマナーに徹していた<比良くん>。 <マストくん>のそれは肉食獣の食事風景というか。 決して下品というわけではない。 そういえば人間は元来肉食だったと思い知らされるような、忠実に飢えを満たしていくような食べっぷりであった。 「なんか……凄まじい」 「目が離せない」 「あのお口に食べられたい……」 マスト時に増加する性フェロモンの影響か。 近くに居座る客が次々とあからさまなリアクションをとり始めた。 慌てて席を立つ敏感なオメガまでいた。 (お色気ムンムンって、こーいうことを指すんだろーか) マストに幾分耐性がついてきたかもしれないと自負する柚木は、食事に耽る彼の隣で、阿弥坂にお情けで恵んでもらったバニラシェークを伏し目がちに飲んでいた。 伏し目がちでいるのは、別格のアルファに見入っている他の客と視線がかち合わないようにするためである。 (比良くんが目覚めたとき、お腹壊したらどうしよう) あっという間にジャンクフードを平らげ、最後のナゲットを一口で頬張った<マストくん>を横目で見、その胃腸の具合をこっそり案じていたら。 バニラシェークの容器を持つ柚木の手が大きな掌に唐突に覆い尽くされた。 そのままぐいっと利き手ごと引き寄せられる。 ひたすらがっついていた口にバクリと咥え込まれたストローの先。 <マストくん>は残っていたバニラシェークを一息に飲み干した。 「甘い」 自分の上唇をペロリと舐め上げ、一切悪びれるでもない彼は、空になった容器を柚木に突っ返した。 (耐性なんてだった) 勝手気ままで傍若無人の暴君。 次に何を仕出かすかわからない危うげな<マストくん>に柚木の心臓はうるさく飛び跳ねる。 「頭の血管が破裂しそう」 向かい側から女王サマの苦言がストレートで飛んでくると、条件反射でやっぱり首を縮めてしまうのだった。

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