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「鬼ごっこ、楽しかったか」 やたら長く思えたかけっこ。 見知った街中から、裏道やら脇道やら縦横無尽に出鱈目に駆け抜け、馴染みのない景色が広がる通りまで連れてこられた柚木は、返事もできずに上体を曲げてゼェハァを繰り返す。 「残念」 横から伸びてきた手に汗ばむ腕が捕まった。 「捕まえた」 「あ……阿弥坂さん……げほ……ッ」 街中を駆け抜けた<マストくん>を片時も見失わず、研ぎ澄まされた運動能力で自分達を追い続けたハンター阿弥坂に、柚木は脱帽する。 「うぅ……ごほっ……うほ……」 「うほ、じゃないわよ。あんな無茶な走り方させて、比良クンの体が怪我でもしたらどうするつもりだったの」 「げほほ……」 「意地でも止めなさいよね」 「ヒィ……」 「非力で無責任で根性ナシ。だからオメガって嫌いなのよ」 「ご……ごめんなひゃい……阿弥坂さん……飲み物代を貸してください……」 「……」 「いたたたたたたッ」 二の腕を捕らえる掌にギリギリと力が込められ、体力を大幅に消耗していた柚木はガクリと膝を突いた。 「鬼はお前じゃない」 痛がる柚木とせせら笑う阿弥坂は思わず顔を見合わせる。 「柚木に触るな」 「ッ……」 女王サマを平然と突き飛ばし、へっぽこオメガを引っ張り起こした<マストくん>は周囲を見回した。 「さっきより暗い場所だな」 「えーと……この辺は夜から活発化すると言いますか……」 いわゆるラブホテル街だ。 怪しげな商品を売る如何わしい店も軒を連ね、夕方に入ったばかりの時間帯、通行人は疎らだった。 「次に私に暴力を振るったら正当防衛で攻撃するから」 「攻撃してみろ。全部倍にして返す」 夜よりも昼の方が静かで薄暗い街の一角。 別格のアルファとアルファの女王サマは物々しげな雰囲気に、ラブホテルの料金メニューが記された看板の前でへっぽこオメガは一人どぎまぎする。 「覚えてなさいよ」 「もう忘れた」 「フリータイム……? そんなのあるの……? カラオケみたい……」

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